「じゃ、俺帰るんで」


「えー一緒にいてよぉ」


 縋り付く東条を鬱陶しげに、朧はグラスを置く。


「明日試合ですし、早く寝たいんで」


「マジメちゃんめ!」


「有難うございます」


 去ってゆく朧が、道中各国のお偉方に捕まり名刺を交換し始める。


 朧の作り笑顔に寒気を覚えながらも、東条は1人寂しくグラスを傾けた。


「キリィッちぃ〜!」


「ブフっ。……何でこっち来んだよ」


「そんな嫌な顔するなよぉ⁉︎友達だろ⁉︎」


「なった覚えねぇよ」


 白スーツで着飾ったガブリエーレにバンバンと背中を叩かれ、東条は苦笑する。


「キリっち見たぜ〜?やっぱ強いなぁ‼︎」


「そっちは?」


「見てよ⁉︎もち勝ちよ!」


「おめ〜」


「はいおめ〜」


 互いにショットを鳴らし、飲み干す。


「……お前のお仲間達、お世辞にも強いとは言えないレベルだろ」


 東条はビュッフェを爆食いしている彼のチームメイトを眺める。


「あぁ、戦うのは俺だけだよ。俺のワガママに無理やり付き合ってもらってるの」


「そうなのか」


「このテーマパークにどうしても来たくてさ〜。……良い人達だよ」


 ガブリエーレは思い出す。

 海を泳ぎ続けて数週間、疲れてプカプカ浮いていた所を、彼らが釣り上げてくれたのだ。


 それからも少しの間面倒を見てくれたり、情勢まで教えてくれて、今では親友の仲。感謝してもしきれない。


「決勝トーナメントに残れば、無料でここに宿泊出来るし、無料で使える施設もある。少しでも恩返ししたくてさっ」


「そうか」


「うん。……楽しんでくれてるようで良かったよ」


 肘をつき嬉そうに3人を見るガブリエーレに、東条も頬を緩める。


「ま、お金はないんだけどね!」


「何でお前そんな金欠なんだよ?」


「この世には美味しい物が多すぎるんだよ」


 東条は悲しそうに俯く彼を鼻で笑う。


「逆に何でキリッちはそんなに金持ちなのさ⁉︎」


「動画投稿で稼いでるからな」


「マッジで⁉︎そういう事しなさそうな雰囲気」


「まぁ、俺ってよりはあいつが、だな」


 親指で差された先、ノエルを見たガブリエーレが「あぁ〜」と頷く。


「彼女、人じゃないよね。なんて言うか、神秘的だ」


「……ああ、あいつはモンスターだよ。今のところ公にはしてないけど、日本と世界が正式に繋がった今、あん時の動画が流れるのは時間の問題だからな」


「あん時?」


「自分で調べな」


「えー」


 立ち上がった東条に合わせ、ガブリエーレも立ち上がる。


「……何でお前も立つんだよ?」


「友達だから!」


「Hey」


 東条がボーイを呼ぶ。


「こいつアルコールで頭やられてるんで、医務室までお願いします」


「承知しました」


「やられてないよ⁉︎普通だよ‼︎」


「余計重症じゃねぇか」


 怒るガブリエーレをゲラゲラと悪い顔で笑う東条。


 ……とその時、


「よぉ」


 太い腕がガバっ、と彼の肩に回された。


 派手なスーツに2mを超えるイカつい巨体。

 イカついタトゥー。

 イカつい髪型。

 ぬっ、と出てきた怖い陽キャの顔に、東条は内心うへぇとなった。

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