「……誰ですか?」


「嘘だろ⁉︎」


 肩を組んだベルナルムはショックに目を見開く。

 自分を知らない奴がアメリカにいるなど、そんなことあってはならない。


「ほ、本当に、俺を知らねぇのか?」


「すみません。存じ上げないです」


「クハっ、ガッハッハ!やっぱ面白ぇなお前‼︎まあ飲め!」


「いや、今飲み終わったところで」


「マスター、1番良い酒だ」


 ダンダンと椅子を叩くニッコニコのベルナルムに溜息を吐き、東条は嫌そうに席に着く。


「俺はベルナルム。最強のハンターだ」


「……自分で最強って言っちゃうんすね」


「事実だからな」


 当然と言い切る彼の横顔には、一切の迷いがない。圧倒的自負。


 ……まぁ、それもそうか。東条は理解している。

 こんな危ない奴を忘れるものか。闘技場で一目見たその瞬間から、当然警戒している。人か疑わしい程の、隠す気のない剥き出しの闘争本能。ガブリエーレみたいな秘めた力じゃない。


 純粋な、『危険』。


 正直今すぐにでもこの場を離れたい。普通に怖い。ノリが怖い。顔とか全部怖い。

 武者震いに逆立つ産毛を撫で、グラスを合わせる。


 ベルナルムはグラスを一気に呷り、ガンっ、とテーブルに置く。

 東条の身体がビク、と跳ねる。


「次の試合、俺と戦れキリマサ。最高の殺し合いをし」


「え、嫌です」


「……あ?」


(ひぃっ)ギロ、と睨まれた東条は近くにいた筈のガブリエーレをチラチラと探し求める。

 っあ、おい助け……


「有難う。……ふふ、今頃天国は大騒ぎだろうね」


「え?」


「だって天使が1人、僕のところまで逃げてきちゃったみたいだから」


「っ、ふふっ」


 軽くウインクするガブリエーレに、ウエイトレスの女性が頬を染める。


「この後暇かい?(ボソ)」


「はい(ボソ)」


 ……後でボコボコに殴ろう。

 甘いマスクでナンパをしているガブリエーレに、東条は心の中で盛大に唾を吐く。

 そして怖い顔に向き直る。


「……なぜだ?」


「いやぁ、昨日俺だったんで、明日は出てないもう2人にしようって話なんすよ。はい」


「あの炎の男か」


「ああはい、そうっす。では」


「座れ」


「あはい」


「……アイツもなかなかの上物だ。

 が、俺には吊り合わねぇ。やはりお前だキリマサ、お前が来い」


「いやだからですね、俺にも事情があってですね?」


「お前も好きだろうよ?戦うのは、ああ?」


「痛いのは嫌いですよ。仲間にも怪我しちゃいけないって言われてて。あんた絶対殺しに来るじゃん」


「何を当たり前のことを」


「もう殺し合いはあの爺さんので充分なんすよ。遊びで殺し合いとかしたくないんで」


「……ふざけんなよ」


 ベルナルムの掌の中でグラスが弾ける。


「……」


「……頼むよキリマサ、俺を失望させないでくれ。ようやく会えたんだ、お前は俺と同じ人種だろ?お前なら俺のことを」



「……しつこい」



「……あ?」


 東条は頭をポリポリと描き、心底面倒臭そうにベルナルムを見る。


「しつこいなぁぁもう」


「……」


「面倒臭ぇよ良い加減にしてくれよ?断ってんだろ?俺が出ねぇっつったらもう出ねぇんだよ。

 なんなんだアンタ?てかそこまで言うなら全員倒して俺を引っ張り出しゃ良いだろ?癇癪起こしたら何でも思い通りになると思ってんのか?ガキか?」


 東条はあーヤダヤダと席を立つ。


「葵さんナメんじゃねぇよボケが。……復讐とかはやめてください怖いんで」


「……」


 スタスタと去ってゆく東条。


 ベルナルムは今にもはち切れそうな血管を抑え、そんな彼をただただ見つめることしか出来なかった。

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