3−2
プンスカと闘技場に上がったノエルは、苦笑する対戦相手を前にフードを取る。
「待たせた」
「あはは。待ってないよ〜」
背丈は190程、歳は40そこらだろうか。
無造作に流された茶髪。
生え散る無精髭。
無気力に緩んでいる垂れ目には、覇気らしい覇気が感じられない。
ボサついた前髪の隙間から覗く、端正な顔立ちと年を重ねた色気が、今まで数えきれない程の女の性癖を歪めてきたことは想像に難くない。
一言で言うなら、
「ダメ男っぽい」
「……あれ、おじさん悪口言われてる?」
無表情でディスるノエルに、おじさんは頬をポリポリする。
「『ッ圧倒的な力を見せつけたキリマサ‼︎NYを蹂躙した彼の後に続くのはっ、あのオリビアを降した張本人、――ノエルゥッ‼︎
対するはこの男‼︎胡散臭さで競わせたら右に出る者はいない!America Hunter Ranking No.2の色男!『
やったれ巻き返せ‼︎という歓声の中、リアンはトホホ、と苦笑する。
「もう僕達勝ち目ないでしょ、これ?」
「これは勝ち抜き。マサは負け判定。お前が全抜きすれば良い。No.2なんでしょ?」
「いやぁ、自信無いなぁ」
嫌そうに溜息を吐くリアンが、2人を隔てるホログラムに手を突っ込む。
「ま、とりあえず宜しく。僕は
「ん。ノエル」
「……娘と同じくらいの子と戦うの、気が引けるなぁ」
定位置に戻るリアンがチラリと上を見ると、VIP席で「勝てー!」と叫ぶオリビアと、そんな彼女に肩車される小さな女の子、そして2人を笑う彼の妻の姿。
リアンは小さく手を振り笑う。
「リアン、妻子いる?」
「ん?そうだよー?ほらあそこ、可愛いでしょー。これでも頼りない父やらせてもらってます」
「びっくり。てっきりヒモかと思ってた」
「……おじさん何か悪いことした?」
カウント越しに毒を吐くノエルに、リアンは苦笑する。
「んじゃまぁ、お手柔らかに頼むよ」
「ん」
3――2――1――
「……娘の前だし、ちょっと頑張っちゃうぞ」
その気だるげな目に、ほんの少しの覚悟を決めて。
――4戦目、開始
「よっ、と」
「?」
と同時にリアンが後ろに跳躍、ノエルと大きく距離を取る。
すかさず懐に手を入れ、一気に引き出すは銀色のローブ。何かの鱗を大量に繋げ作成されたそれを、リアンはひらりと全身に纏った。
「もうちょっと待ってねー」
「ん」
続いてローブの下から3つの粉袋を取り出し、自身の頭上にばら撒く。
『鬼纏』『鎧纏』『自動回復』:Limit 10 min.――Start
「ケホっケホっ、次は丸薬にしよ」
「もういい?」
「あぁありがとね」
咳き込むリアンは律儀に待ってくれていた彼女に礼を言い、続いて小さな銀色のキューブを取り出す、瞬間変形。
掌サイズだったキューブが、銀鱗を纏った無骨なマスケット銃へと変化した。
「……」
ノエルはリアンの手元、一瞬でリロードされた弾に目を細める。……懐から取り出された赤い鱗が、彼が触れた瞬間に赤い弾丸に変わった。
「それじゃ、始めようか」
ノエルに向く銃口。相変わらず無気力な笑み。問答無用で引かれる引金。
「……」
弾丸はガガガンッ‼︎とノエルを守る様に生えた樹木に2発、手前の地面に1発突き刺さり停止。
「――っ」
瞬間赤熱化――爆発。
樹木を吹き飛ばすと同時に砂煙を打ち上げ、ノエルの視界からリアンを消した。
「……さぁて、どーしよ」
Liam Adams――
銀色のローブが爆風に閃き、銀色のマスケット銃が太陽に煌めく。
冷たい鱗輝を纏う彼の姿は、まごうことなき強者のソレであった。
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