1−2



 ――「『3、2、1、ッ開始ィイ‼︎』」



「……」


「……?来ないのか?」


 東条はポケットに手を突っ込んだまま動こうとしないアルハイルをクイクイする。

 先手は譲ってやるつもりだったが、来ないならいい。


「んじゃ、こっちから行くぞ」


「……」


 ピョンピョンジャンプし、足に漆黒を纏おうとした、


 その時だった。


「ん?」


 違和感。何だ?

 漆黒が、出ない?


 不思議がる彼を、アルハイルがニヤリと笑う。



「はい。終わり」



「ん?っと」


 直後自分に向けて放たれる雷撃、火球、風塊、水砲。軽く跳んで躱した東条は、やはり何度やっても出ない漆黒を一旦諦める。


「何これ?消失系のcell?」


「くくっ、そう焦るなよ?自分が1番嫌な状況だからってさぁ!」


 ……あれ?厨二病って会話も出来ないっけ?

 東条は足元から生える土剣を躱し、

 飛来する氷の槍を叩き割り、

 降り注ぐ高熱の光の束をピョンピョン躱す。


 ……これで7属性だぞ?まさか全種類の魔法を使う人間がいるとは、驚いた。

 ――着地。瞬間地面を蹴り突貫。拳を振り抜く。

 しかし手応え無し。


「ハハッ、どこ狙ってんだよ!」


「……」


 東条はからぶった拳を見つめてから、一瞬で遠方に移動したアルハイルに振り向く。……瞬間移動。


「……んー」


 能力を消す能力に?全属性魔法に?瞬間移動?……ちょっと多すぎやしないか?


「ほらほらほらァ!さっきの威勢はどうしたよ⁉︎」


「ちょっと今考えてるから、」


 めちゃめちゃに魔法が爆発する地面を、東条は腕を組みながら走る。


「ッ何考えたって変わらないよバーカ!」


「バーカってw何か喋ってないと死ぬの?ずっと引き籠もってたから他人と関われて嬉しい感じ?」


「黙れ‼︎」


「煽り耐性0かよ⁉︎」


 放たれたレーザー光線を首を傾けて躱した東条がその場で軽くジャンプ、鞭の様にしなる植物を躱し、

 地面から生成されるゴーレムを完成前に踏み壊す、地面に降りると同時に影の沼に足を取られるも蹴り散らし、

 虚空から出現したアイアンメイデンを内側から爆砕、


「はぁ⁉︎」


 瞬間宙に出現する魔法陣から射出される剣や槍、刀を掴み、殴り斬り払い、

 打ち出された雷撃を手で弾き前傾に、

 ――『輪廻』


「――¬ッ、ハハッ、またハズレ!」


 一瞬で接近してきた東条を瞬間移動で躱したアルハイル――の眼前に迫る拳、


「――ッ、ック、ッッッ」


 テレポートと同時に多種多様な攻撃をぶっ放しまくるアルハイルと、着地と同時にテレポート先へ跳躍しまくる東条。


 キラキラピカピカグラグラグツグツ、闘技場を覆う特殊能力の見本市の様な光景に、観客は大いに盛り上がる。



『何だアイツのcell?』『あれゲートオブバビ◯ンやん』『草』『植物も使えるのか?』『ノエルのアイデンティティがっ』『影を使った攻撃?デバフか?』『自然操作じゃね?』『エクスカリバー打てんじゃね?』



 絨毯爆撃を物ともしない東条が、遂にアルハイルの身体を捉える。

 顔面を掴もうと手を伸ばし、


「あら、」


 しかしすり抜ける。

 同時にアルハイルの身体がブレて消えた。幻覚。


 反対に完全に背後を取ったアルハイルの手元に、黄金の大剣が精製される。


「吹き飛べッ!」


 振り下ろされた黄金の極光が東条を呑み込み、外周の結界にぶち当たり轟音を上げた。

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