あの日の決着


「朧、」


 ノエルと話していた彼の元へ、葵獅と紗命が歩いて来る。


「筒香さん、この人気絶してますけど」


「電撃でも浴びせてみたらどうだ?」


「そすね」


 電撃が瞬く中、ノエルは隣に立つ紗命をチラッ、と見る。


「……さ、紗命、」


「はぁい?」


「そ、その、……助けてくれて、ありがと」


「……」


 紗命はモジモジするノエルを目に映し、すぐに逸らす。


「別に助けた覚えはあらへん」


「……ん」


「……」


「……」


「……ノエル」


「、?」


「……桐将を助けてくれて、ありがとうね」


「っ、……ん」


 嬉しそうなノエルを横目に、紗命も仕方なさそうに微笑む。


 バヂィイ!!


「イッテェ⁉︎何⁉︎誰⁉︎ッは⁉︎朧⁉︎葵さんもいんじゃん⁉︎は⁉︎」


「うるさいなぁ」


「いきなり当たり強ない?」


 嫌な顔をする朧にシュン、となる東条は、そこでこちらをジッと見つめている葵獅と目を合わせる。


「おぉ葵さん、お久」


「……東条、身体は大丈夫か?」


「え?ああ、うん、別に大丈夫だな」


「なら良い。そこに立て」


「ん?」


 服を放り投げ、歩いてゆく葵獅。


「ノエル、おいで」


「?ん」


「ほらほら、カメラの人達も下がって〜」


 彼に合わせ、なぜか皆も自分達から距離を取り始めた。


 5m程の間隔を空け、葵獅が正面に立ち、……東条は首を傾げる。


「どゆこと?」


「……お前は俺の教えた技術で、罪なき人を殺した」


「……」


「これは俺なりのケジメだ。……受けてくれるな?」


 腕のバンテージを解く葵獅を見ながら、東条は頬をポリポリと掻く。


「……葵さん、悪いが反省を促すなら無駄だぜ?そのことに関して、俺が悔い改めることは二度とねぇ」


「構わん。言ったろ、これは俺のケジメで、ただのワガママだ」


 軽く笑う葵獅に、東条は天を仰ぎ空を見る。


 ……さっき紗命に言われたことだ。少しは考えてみろ。

 あの日から、自分がどれだけの仲間達に迷惑をかけていたのか。


 ……東条は1度目を瞑り、――パンッ、と両頬を叩いた。


「……うし。この際だ、日本に置き去りにしたもの、纏めて清算しよう」


「感謝する」


 葵獅の左肩から炎の腕が生える。東条の両腕が漆黒を纏う。


 足を引き、互いに同じ構えを取る2人。


 ……カメラマンが息を呑み、レンズの奥が息を呑み、彼らを知る者が静かに見守る。


 恋人達ですら、ノエルですら、あの2人の中に繋がる思考を知ることは出来ない。


 世界が変わってからの1ヶ月、最も濃い時間の中、朝も、昼も、夜も、殴り合って過ごした戦闘狂い。


 彼らの間に言葉はいらない。


 ただ、その拳の重さが、



 互いの全てを教えてくれる。




「……勝負だ、東条桐将」


「……勝負、筒香葵獅」




 獰猛に口角を上げた2人は、――大地を踏み締め、同時に蹴り抜いた。

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