30話


 その鬼畜の所業に誰もが唖然としている中、上空で待機していた黒龍が羽ばたき降りてくる。


 一方山頂の淵からは、上裸になった男2人が服を絞りながら降りて来た。


 カメラの1つが男2人を捉える。

 乱れた長髪と無精髭、2mを越す傷だらけの巨体に武装された筋肉のデカさは、Mr.キリマサの倍はあるか。


 その隣で短髪を掻き上げる男の眼光は鋭く、どこか義務的な、堅い印象を受ける。

 鍛え抜かれた肉体の美しさはMr.キリマサと同等。


 完成された肉体美2人が並んで歩くその姿に誰もが息を呑み、しかし同時に感じる、圧倒的……『野生』。


「おい紗命、」


 葵獅のジト目に、紗命がヒラヒラと手を振る。


「堪忍やわぁ葵はん、亜門はん」


「紗命殿、……はぁ。言いたいことは多々ありますが、もう良いです。私は早速公務に移りますので、ここで1度お別れです」


「はぁい、お疲れ様亜門はん。楽しかったで」


「……フっ、私も結構楽しかったですよ。お疲れ様です」


「じゃあな亜門、俺も後から行く」


「頼む。――Is there anyone in charge here?」


 責任者の元へ歩いてゆく亜門の後ろで、身を屈める黒龍から男女が飛び降りる。


 真っ赤な長髪を靡かせ、着地する長身の美女。

 赤いビキニを押し返す豊かな双丘、ジーパンを履き、上からジャンパーを羽織るというラフな格好。首に巻かれた赤いチーフとサングラスかとても映える。


 その隣の気だるげなハンサム!ボーイは、ジャンパーを肩に掛け、勝手にスタスタと仲間から離れていってしまう。

 それだけで協調性の無さが見て取れるが、ハンサムなので良し。


「ごめ〜んぁいで⁉︎」


 笑顔の灰音に、紅のチョップが炸裂する。


「勝手に行動して、亜門殿と葵獅殿にも迷惑かけて、下手したら公務執行妨害で逮捕だよ?」


「だってぇ、あの女がぁいで⁉︎あ、ちょぁ、ごめんへぇ」


 灰音のほっぺをグリグリと引っ張る紅。


「ってか何で焔季服変わってんのさ⁉︎いつ着替えたのっ?」


「買いに行った。お前が濃厚なキスを世界配信してる内にな」


 スマホを振り笑う紅に、灰音も苦笑する。


「それは見てたんだ」


「当たり前だろ。録画もした」


「やめてよ⁉︎」


 紅のスマホを取ろうとする灰音の、そのまた後ろ。



「……(つんつん)」


 立ったまま気絶する東条を、ノエルが枝でつんつんする。


 朧は溜息を吐き、その完全に燃え尽きたオブジェを眺める。


「久しぶりノエル、元気してたか?」


「ん、久しぶり。元気」


「そりゃ良かった」


「朧は?」


「正直疲労の方がデカい。やっと解放されて内心歓喜してる」


「ふふっ」「……フッ」


 互いに笑い合い、ノエルが立ち上がる。


「マサ、ノエル達以外のメスに性欲感じなくなったんだって」


「クソウケるな」


「ん。ガチワロス」


 ノエルが朧に手を差し伸べる。


「朧、あの時は助けてくれてありがと。お礼、言えてなかった」


 少しだけ驚くも、朧も素直に手を差し出し、握り返す。


「……今思うと考えられないな。俺最初お前に殺されかけてるんだよな」


 朧は遠い昔に感じる、簀巻きにされたまま殺されそうになったあの瞬間を思い出し、身震いする。ちょっと今でも軽いトラウマなのだ。


「ん。あの時は本気だった」


「やめてくれ」


「でも今は違う。朧は仲間。ノエルもマサも、たぶん朧を1番信頼してる」


「……」


 朧はノエルから顔を逸らし、そっぽを向く。

 ……少しだけ嬉しいと思ってしまった自分を、すぐに隠したのだった。

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