13話


「ククっ、度し難いですね」


「変えられねぇ老兵の性さ」


 抜刀の構えを取る笠羅祇。


 全身を漆黒で武装する東条。正々堂々に共感は出来ないが、生憎血の香りは自分も好きだ。殺し合いたいと言うなら、受けて立とうじゃないか。


 瞬間、2者の姿が同時に掻き消えた。


 急停止、東条の放った拳よりも速く、刀が自分の眼前を通過、加速、踏み込み、ボディ。


 笠羅祇は身体を捻り半回転、拳を躱しそのまま刀を袈裟に振り下ろす。


 ――来た。東条は笠羅祇の攻撃を無視、そのまま軸足を開き、刀をへし折らんと剛拳を振り抜いた。

 この達人がどれだけ技を極めようと、物理攻撃しか手がない時点で詰んでいるのだ。俺のcellを知らないわけもないだろうに。


 ――漆黒の拳と銀線が衝突……


 刹那、東条の脳裏に1つの疑問が浮かぶ。

 ならなぜ、この男は俺に刀で挑む?刀が好きだから?いや違う、あの笑みは、確実に勝算がある笑みだ。先の発言は全て嘘で、俺を騙すためのブラフ?Cellに秘密が?他には。


 刹那、東条は目を見開く。


「……は?」


 ――する直前刀がブレ、拳がすり抜けた。


「見誤ったな?」


 自分に迫る刀を遅々として知覚しながら、東条は理解する。笠羅祇の勝算の秘密はcellなんかじゃない。



 この刀そのものだ。



「――ッッグ⁉︎⁉︎」


 全力で回避行動を取った東条は、ニヤニヤと笑う笠羅祇に目を細める。

 ……自身の胸に当てた掌には、ベッタリと血が付いていた。


「今のを躱すかよ?反射神経どうなってんだ?」


「何ですかその刀?……気持ち悪い」


 笠羅祇は白銀の刀身を振り、血を払う。


「良い刀だろ?なんでも沖縄で出た使徒の1部を使っているらしい」


 はい理解。東条は天を仰ぐ。

 あんのペテン師、やっぱり特殊部位勝手に武器化してやがった。今度会ったらまた殴ろう。


「む?……」


 ムクムクと体積を増やしデカくなってゆく人型の漆黒を目に、笠羅祇は少しだけ警戒を強める。


「おお、大阪のやつだな!」


『Beast』へと形態変化した東条の全身に、更に白い紋様が走る。

『Beast』 +身体強化『阿修羅』。現時点の最高硬度だ。あの刀相手には、厳密にはあの刀を持ったあの爺さん相手には、これでも不安が残る。


「正直舐めてました。良い機会です。……胸借ります」


「ダハハっ、何を言うバカめ!借りるのは俺の方だ。……俺の技が化物に通じるか、とくと試させてもらう」


 笠羅祇が納刀した。


 ――瞬間笠羅祇の眼前に特大の拳が迫る。遅れて東条の足場が爆砕。


 先の数倍の速さに、しかし笠羅祇は一切動じずに抜刀、ギャリリリッッ‼︎と拳に刀身を合わせいなし、更に手首を返して伸びた腕を下から斬り上げた。


「ほほお‼︎」


 しかしそこに笠羅祇の望んだ未来は訪れない。魔素を無視する刀も、全力の武装の前ではミチミチと食い込むだけに留まった。


「ぬ」

「オルァッ!」


 躊躇いなく巨腕を振り下ろした東条が地面を粉砕。バックステップで躱した笠羅祇に一足で追いつき、地面を抉るようにアッパーを繰り出す。


 笠羅祇は土煙を晴らし迫る剛腕を前に前進、斜め下から刀を添え軌道を変え、



「起きろ――『白帝』――」



「――ッ」


 振り上げた刀そのまま、再び袈裟に斬り下ろした。


 直前で飛び退いた東条は、白く発光するその刀身を目に最早苦笑する。


「……ヤベェなぁ、ありゃ」


 あれはたぶん、この装甲すら貫通する。

 しかしまぁ、と東条は片手を上げる。


「あ!おま、ダハハっそれが狙いか!」


 その手には、笠羅祇の腰に差さっていた刀の鞘がつままれていた。

 これで抜刀術は使えない。あの初速は封じた。残るカラクリは直前でブレた刀。

 何だろう、凄い楽しいっ。


「勝った気になってんじゃねぇぜ東条?」


「まさか?」


 鞘をぶん投げ、トラバサミの様な口を獰猛に歪める東条は、両足を弛ませ、瞬間爆走、


「ここからでしょうよォッ‼︎」

「ダハハハッ‼︎」


 両拳を組み合わせ脳天目掛け振り下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る