1章〜Invitation to Entertainment〜

1話



 昨日ぶりの警察署の前。

 石壁の上に座るノエルは、足をブラブラしながら空を見上げていた。


 夜は20時を回った頃だろうか、繁華街からは相も変わらず賑やかな喧騒が響き、カラフルな街明かりが夜空の星を霞めている。


「……にゃー」


 暇なノエルは猫じゃらしを生成し、近くの野良猫に向けてフリフリ、


「シャーー‼︎」


 そして逃げられる。


「……」


 彼女は猫の背中に向けて猫じゃらしを投げ捨て、けっ、と唾を吐いた。


 なぜノエルがこんな所で暇を持て余しているかというと、時は30分程前に遡る。


 無事ハンター加入試験をパスした東条の挑発により、ギルド内で乱闘が勃発。

 その前のケルベロスとの戦闘でかなり損傷していた建物の1部が、入り乱れる魔法に耐え切れず崩落。

 近隣住民の通報により警察、軍、消防隊が出動する大惨事となった。


 その際、主犯格として満場一致で指を指されたのが東条。


 そういうわけでノエルは今、2日連続でお縄にかかったバカを待つため、外壁の上で下等生物相手に猫じゃらしを振るハメになっているのだ。


 もう帰ってやろうか。

 ノエルが壁から飛び降りてお尻をはたいていると、ちょうど署のドアが開き、中から東条とオリビアが出て来た。


 呆れ切った警官が青筋を浮かべ、東条の両肩に手を乗せる。


「頼むから、もう来るな。分かったか?」


「オーケーオーケー、ノープロブレム」


「……本当に伝わってるのか?」


 良い笑顔で答える東条に、警官はオリビアを見る。ハワイに来て早2日、最早この男の信用は無いにも等しい。


「大丈夫大丈夫、これからは私が見とくから!」


「本当に頼むぞ?」


「オッケ〜、ほら行くよキリマサ。ちゃんと謝って」


「アロハ」


「ウルセェさっさと行け」


 ようやく解放されて伸びをする2人の目に入る、門の前でブスくれるノエル。

 如何にも怒ってますよ、という表情に2人して笑ってしまう。


「お待たせー」


「すまねぇな、待たせた」


「……んー」


 東条がご機嫌斜めなノエルの頭をワシャワシャしながら謝るも、しかし彼女はプイ、とそっぽを向いてしまう。


 こりゃ何か貢がないと数日は引きずるやつだ。はてさてどうするか。

 東条が頭を悩ませていた、そんな時、


「じゃあ用事も済んだし、どう2人共?これからご飯食べに行かない?」


 オリビアの一言に、ノエルの顔が上がる。


「私良いお店知ってるんだ〜。どうする?特別に奢っちゃうよ?」


「行く」


「イェ〜イ!ノエル何食べたい?」


「肉」


「肉かー、肉いっぱいあるよ〜!」


「ん」


 手を繋いで歩く2人を目に、東条は苦笑する。流石テイマー、モンスターの扱いはお手の物ってか。

 振り向いたオリビアが、自分に向けて手を振る。


「キリマサも繋ぐー?」


 何はともあれ、これで平穏は保たれた。彼女には感謝しよう。


「是非!」


 横に並んだ影法師が、眩しい街中へと消えて行った。


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