自分のいる意味
――真夜中、張り巡らした樹木に囲まれた薄暗い空間の中で、ノエルはカタカタとパソコンを打つ。
カプセルのぼんやりとした光、カプセルの稼働音、小窓で表示したニュースを耳に、科学、化学、医療分野の論文を読み漁る。
中でも、心臓に関する物を重点的に。
「……」
なぜ投与した回復薬で傷が塞がらないのか、それは自分のcellを、マサの暴走したcellの崩壊速度が上回っているからだ。
ではなぜマサの全身が崩壊しないのか?
その秘密が心臓にある。
いや、最早これを心臓と呼んでいいのかも分からない。
マサの心臓は今、独自に無限のエネルギーを生み出し全身に循環させているのだ。
……思い出してみれば、いつからか、マサの攻撃パターンは変わっていた。
昔はカウンター主体だったものが、最近になるにつれ連続的な暴力へとその形を変えていた。
マサの能力の性質上、受けたエネルギー以上の動きは出来ない筈なのだ。
物理学的にも、科学的にも、それは有り得ないのだ。
……だと言うのに、最近のマサの動きは常軌を逸していた。
獣化系並の自然治癒力然り、雷装や火装とか、あんなもの溜め込んだエネルギーだけでどうこう出来る技じゃない。
マサの強さは、消費エネルギーと同義と言っても過言ではない。
要するに、マサ自身がエネルギーを生み出していなければおかしいのだ。
少し考えれば分かることだった。
「……」
現在マサの体内では、崩壊と再生が拮抗している。
どうにかしてこの拮抗を再生に傾けることが出来れば、
マサは目を覚ます。
しかし自分の力では、そこに介入することすら出来ない。
何のために回復薬を作ったのか、何のための『王』の力か、
「っクソ……」
ほとほと自分が嫌になる。
無力感と罪悪感に顔を歪めるノエルは、しかしそこで付けっぱなしにしたニュースに耳を傾ける。
「っ」
いつもは自分の悪口と耳を塞ぎたくなるような世論しか垂れ流さないそんなレポーターに、ノエルの目が釘付けになる。
正しくは、そのレポーターのいる場所と内容に。
『えー、現在私は、東条氏が襲来したモンスターと激戦を繰り広げた離島に来ています。
地盤が崩れているため大変危険ですが、っおっとっと、先程、ここからそのモンスターの物と見られる特殊部位が発見されました。
あぁアレです!1本の長い、……骨でしょうか?とても綺麗ですね。
あの骨が未だ抜かれていない理由ですが、嘘か真か、上位の特殊部位になればなる程、持ち主を選ぶと言われています。
今現在ここにいる者では、近づくだけで気絶してしまうらしいです。どれっ、ここは1つ私も試して――』
そこでカメラの横転と共に映像が途切れた。
――同時刻、藜組地下秘密基地内に、施設損壊を報せる警報が響き渡った。
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