交わる思惑

 


 ――時は遡り、今から人魔がぶつかるという頃。


 京都にある東条邸宅の、


「警察です。開けていただけますか?」



 周囲1㎞が封鎖、完全包囲される。



「有栖さん、繭野さん、御2方に同行願いが出ています。開けていただけませんか?」


 重厚な門前にて、令状を持った武装警官が防犯カメラに呼びかける。


 ……しかし答えるのは沈黙のみ。


「……突入開始」


『『『『了解』』』』


 警官の合図に頷いた東西南北客3マンセルの4部隊が、起立する塀にワイヤーをかけた。


 ゆっくりと塀から頭を出し、安全を確認してから塀の上に座る。


「……」


 小石を地面に投げ、途端飛び出すノエルの仕掛けた罠を看破、脅威ではないと判断し飛び降り、――瞬間襲い来る地雷型植物を、ナイフの一閃で無力化した。


 静かに、されど迅速に建物まで到着した4部隊は、炎魔法を使いガラスを溶かし住居内に侵入。


 コンシェルジュルーム、


 1階から2階へ、


 リビング、


 空き部屋、


 トイレ、


 東条の部屋、


 ノエルの部屋、


 巨大サーバールーム、



 ……有栖の部屋、



 ……………最後の部



 ガチ、



「……」


 隊員の手に、ロックの感触が伝わる。


 この部屋だけ、中から鍵がかかっている。

 そこは念のためにと用意された、外界完全遮断の会議室。


 隊員が指で合図を出し、頷く、


(3、2、1)


 扉を蹴り開け、スタングレネードを投げ入れる、爆発と同時に、銃を構え突入、



「手を上げろ!」




 ――風を切る感覚。


 流れる景色を目に、有栖はゆまの腰を抱きしめた。


「寒くありませんかっ?有栖様」


 ライダースーツに身を包み大型バイクを飛ばすゆまが、ヘルムの下から少しだけ大きな声を出す。


 警察が邸宅に侵入したその頃、既に2人は東京に向かって高速道路を北上中であった。


 部屋着の上にダウンを羽織りリュックだけ背負った有栖が、何も分からないと言う顔で流れる綺麗な髪を見つめる。


「さ、寒くないけどっ、そろそろ教えてよ!今私達何してんの⁉︎」


「逃亡です」


「何で⁉︎」


「現在京都邸宅には武装警官が突入している頃です」


「いや何で⁉︎」


 いきなりのカミングアウトに驚愕する有栖。


「藜組幹部の方から連絡がありました。彼らも怪しいですが、国よりは信用出来ます。それに今は彼らに頼るのが最善。……まさかこのタイミングで仕掛けてくるとは、……ノエル様が心配です」


「ちょいちょい待ちちょいちょい!何の話⁉︎全く分からないんだけど⁉︎」


「……申し訳ございません有栖様、私の口からは言えません」


「……え〜」


 言葉を詰まらせる有栖に、ゆまはいつになく真剣な声で語りかける。


「これから有栖様をシェルターにお送りします。快適さは保証しますので、何卒、勝手な私をお許しください」


「……」


 何か嫌な予感が頭をよぎり、有栖は遠くを見つめる。



「…………(東条くん、ノエル、……無事だよね?)」



 ゆまはこれから起こるであろう事態に顔を顰め、更にアクセルを回した。


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