最強

 

「ッ無事かノエル⁉︎」


 瞬時に飛び退いた東条は、腕を飛ばされた彼女に絶句する。

 あのノエルが気付けなかった⁉︎あり得ねぇだろッ!


「……ん。問題ない」


 既に傷口は塞がっているが、部位欠損ともなると流石のノエルでも瞬間治癒は難しいか。


「「……」」


 東条もノエルも、いつもなら報復と称し最速で攻撃を放っていたことだろう。

 しかし、今回ばかりは違った。相手の次手を警戒した。いや、それ程に、慎重にならざるを得なかった。


 吹き出した冷や汗が、頬を伝い落ちる。


「……援護頼むぞ」


 東条の身体を漆黒が包み、ビースト化、阿修羅を発動、表面に白い線が浮かび上がる。


「ん」


 瞬間、東条が大地を蹴り砕き飛び出した。

 ギョロリと自分を見る紅眼に拳を振り翳し、


「コココ、?」


 直前で横に跳ぶ。

 その背後からノエルの放った数発の杭が出現。

 東条はすぐさま切り返し、杭に合わせ真横から拳を振り抜いた。

 正面と横からの同時攻撃。完全に入った。


 しかし、


「っ」


 カロンは4腕の掌から生み出した骨剣で全ての杭を斬り払い、残る2腕で東条の拳を受け止めた。

 衝撃波に足元の瓦礫が吹き飛ぶも、カロンは無傷。動いてすらいない。


「――シッ‼︎」


 東条は拳を引き腹目掛け回し蹴り、


 を放つもカロンはその足に骨剣を振り下ろし叩き斬る、


 直前で東条は足を引き空中で回転、逆足の後ろ蹴りを3つある頭骨の1つに叩き込んだ。


 若干驚いた表情で大きく仰反るカロン、


 に間髪入れずノエルの大樹が襲い掛かる、


 があろうことかカロンはその先端を片手で受け止め強引に停止、骨剣を振り上げ、数10mはある大樹を3枚に卸した、


 瞬間に東条が急接近、


「『雷貫ッ』」


 顔面をぶん殴り、雷光に乗せてその身体を押し飛ばした。

 仰け反ったまま地面を削りスライドし、しかし倒れないカロンを見て東条は苦い顔をする。


 いや、ここからだ。勝負は。


「……すぅぅぅ、ふぅううう。……どう見る?」


 1度深呼吸をして切り替えた後、隣に来たノエルに横目で尋ねた。

 ノエルの腕は既に完治しており、こちらも万端のようだ。


「……『阿修羅』纏ってるノエル達より、阿修羅してる」


「いや外見のことは聞いてねぇよ」


 軽く笑い合い、良い塩梅の緊張感になったところで、2人はアレを殺すための準備を開始する。


「尋常じゃねぇ硬さだ。黒いままじゃ攻撃通らねぇ」


「体内温度が37度付近で安定した。たぶんあれが本来の姿」


「死角がねぇ。不意打ちは無理だな」


「攻撃への対処方法が変わってる。属性魔法使えなくなってる可能性あり」


「結論?」


「ノエルは遠距離からアレの手数減らす。マサ最大火力で畳み掛けて。長期戦は不利。3分で終わらす」


「了ォ解ッ!」


 ――瞬間東条の全身を雷光が包み、ソニックブームに瓦礫が吹っ飛ぶ。

 ノエルが地面に手をつくと同時にカロンの周囲を数100本の荊が囲み、

 地響きを立て巨神が立ち上がった。


 現在行使出来る最大火力。この布陣であれば、数日で国すら落とせる気がしてくる。


 カロンはそんな天変地異すら生ぬるい3者の殺意を、


「――beautiful」


 6本の腕を広げ歓迎


「余裕だなァ」


 ――している最中にも関わらず、刹那で接近した東条がバチバチと轟く拳を顎下目掛け振り抜く、


 がカロンは異常な反射速度で顎を逸らし、骨剣を振り下ろ


 す腕を荊が絡め取るも腕力で引き千切られる


 と同時に東条が地面に手を着き腹を蹴り上げる、


 打ち上がったカロンに既に振り抜かれた巨神の大剣が衝突、


「――ココココッ」


 する直前でカロンは回転、2本の骨剣を同時に振り下ろし山程ある巨大な大剣を叩き折った、


 瞬間ノエルの投擲した木槍がカロンの頭蓋に直撃、


 するよりも速くカロンが首を逸らし回避、


 するもノエルが手を握ると同時に木槍が枝分かれ、カロンの全身を羽交締めにするが一瞬で引き千切られる、


 と同時に雷鳴が唸る、東条の踵落としがカロンの脳天に直撃、大地に爆雷を落とした。


 吹き飛ぶ瓦礫、巻き上がる土砂、を押し潰し間髪入れず巨神が拳を殴り下ろす。

 隕石の如き一撃、


 に向けて無傷のカロンが骨拳を振り抜いた。

 轟音、衝撃波、地面が大きく凹み、巨神の拳を腕ごと砕き散らす。


 と同時に、雷光を靡かせ放たれる東条の拳、


 をカロンは上体を逸らし躱し、続けざまに放たれる2連撃に骨剣を合わせるも躱される。

 背後から襲い来る大樹を叩き斬り、荊の群れを一閃、


 をしゃがんで見送った東条は瞬間踏み込み、


「――ッぉルァッ‼︎」

「ッ」


 カロンの胸部目掛け渾身のラリアットをぶち当てる。

 閃光、頑強な外骨格に亀裂を入れ、雷鳴、瓦礫を根こそぎ破壊し、海の上までカロンを吹っ飛ばした。


「ッコココっ」


 海面を数回水切りしたカロンは体勢を立て直し、水上で大きくバックステップ、ジャンプして落下してきた巨神から退避、


 直後大波をぶち抜き、髪を振り乱したノエルがバカデカい大樹を発射、


 カロンが4振りの骨剣を構え、一


「――ハハハァッ‼︎」

「っ⁉︎」


 閃と同時に大樹の中から『火之迦具土神』を纏った東条が突貫、

 飛び蹴り、ガードに回された骨剣ごと亀裂の入った胸部を溶解させ、――爆裂、


 途轍もない速度で隣の離島までぶっ飛んだカロンが、山をぶち抜きキノコ雲を昇らせた。


「ッ決めるぞノエル‼︎」


「ん!」


 巨神が掌の上に着地したノエルを、思いっきりぶん投げる。


 海に落ちる途中で東条は『火装』から『雷装』に換装。海面を爆散させ上空まで大跳躍する。



「……コココ、」


 立ち上がったカロンは、降り続く雨に蒸気を上げる胸部に手を当てる。

 その手を見ればべっとりとついた己の血。


 ……この状態で傷を負ったのは初めての経験だった。


 グアムで相対したあの強者も、追われた先で3体同時破壊を成したが、結局はこの状態の自分に傷一つ付けられず自死してしまった。


「……」


 カロンは天を見上げ、曇天の中、1振りの神刀を携え落下する人間を眺める。


 王ノエルは、あれを奴隷ではないと言った。

 ……なるほど確かに、間違っていたのは自分だったようだ。


 あれは奴隷でもペットでもない。



 ……あれは、敬意を払うべき、美しき脅威だった。




 刹那、



 ――「『布都御魂フツノミタマ』」



 天威を閉じ込めた黒刀が、カロンに突き立たった。


 ――山が消し飛び、大地が溶解、豊かな風景が閃光の中に消し飛ぶ。

 残雷が形成するドーム状の電磁力場の中は、最早生命が存在出来る空間ではない。



 しかし2人は油断しない。


 殺す時は、徹底的に。



「っっっ」


 瞳だけでなく肌にまで蛇の特徴が顕現したノエルの身体に、ポンポンポンっ、と植物が生え出す。


 ……欠片1つ、残す気はない。


 瞬間、黒刀の周囲の地面が爆ぜ、何かが勢いよく鎌首をもたげる。


 数10本の大樹を捻り合わせ構成された、26匹の蛇龍。


 長大な首をもたげ、標的を目に口を開ける蛇に向け、



「『ラグナ・ククルカン』」



 ノエルは指を振り下ろした。


 ――餌に向け一斉に牙を振り下ろした蛇は、一瞬にして雲まで昇る大粉塵の中に姿を消す。


 外から微かに見えるのは、島中をうねり暴れ回る超大な蛇の身体。


 木々が呑まれ、大地が平され、曇天の下雷撃が走り回る。



 その光景はまさに、天変地異と呼ぶに相応しいものであった。

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