最終巻 White-out 1章〜百人百様〜
幕間
場所は群馬試験場、調査組合本部、大会議室。
国会上層部や、国家に属する戦闘組織の総隊長クラスのみが集められたこの場では今から、今後の日本を左右しかねない、あのクリスマスの日以来の大会合が始まろうとしていた。
壇上に立つ亜門がマイクを持つ。
「それでは、これより秘匿会合を始めます。初めに言っておきますが、本日議題に上がる内容は一切の他言を禁じますので、悪しからず」
席の1つに座る、SAT総隊長、剛力丸が辺りを見回す。
「そういや見美ちゃんはどうした?こないな仕事はあの子の十八番やろ?」
「見美監査員は本作戦から外れました。よって今回の会議にも出席しません」
「……は〜〜、確かに見美ちゃん、あの連中と仲良さげやったもんな。我道、オノレも酷なことするなぁ?」
「……」
剛力丸が総理にジト目を向けるも、総理の顔は微塵もぶれず、書類のみを見ている。
亜門はつまらなそうに椅子を揺らす彼に向けて瞳を鋭くする。
「剛力丸隊長、私語は慎んでください。次は退出させます」
「へいへい」
「……では、始めます」
――前置きとして規約の改訂案。後進の育成状況。沖縄の現状や、北海道への侵入者のことなどが話し合われる。
「今現在沖縄には、犬型のモンスター、恐らくシーサーの概念が受肉したものと思われる1種のみが生息しています」
「危険は?」
「東条調査員の話によると、人を守るために命を懸ける程お人好しだとか。沖縄ではシーサーは守護獣としての側面も持っています。数少ない人間に好意的な種かと」
「ならば主要施設やコロニーの建設は沖縄にすべきでは?」
「確かにな」
「今最も安全な場所と言っても過言ではないしな」
「待て待て、あのバカデカい木はどうする?襲って来ないという保証は?それに少し行けば新大陸だぞ?もし海を渡れるモンスターが出てきたら?沖縄で起きたことの二の舞になるぞ」
「……う〜む」
「一応ノエル調査員によると、人は襲わないと」
「誰がモンスターの言葉を鵜呑みにすると?」
「我々の彼女の見方は完全に変わりましたからね。それを信じろとは些か酷かと」
「……この件は後程。続いては北海道に侵入した者達ですが、藜調査員本人だったことが判明しました」
「疑問だね。彼は最上位等級だろう?言えば普通に入れるのに、何故無断で?」
「これが色々複雑でな、どうやら人探しをしていたらしく、それが東条調査員の旧友だったらしいんだ。彼にいち早くサプライズをするために、組合への報告義務を無視したと本人は言っている」
「あははっ、まぁ結局報告してくれたから良いんだけどさ。いきなりとんでもないレベルの人達が増えてたから、びっくりしたよ」
「……理解できないな」
「これだから『冒険者』は……」
「それはそれとして、1つ疑問が。東京特区の中に、大規模な炎上跡が確認されています。北海道から避難して来た者の中に、このレベルの炎魔法を操れる者はいません」
モニターに禿げ溶けた大地と崩壊したビル群が映し出される。
「……何だこれは」
「『使徒』でも出たのか?」
「加え避難民に知らないかと尋ねると、誰もが口を濁すような素振りを見せます。何か隠しているのは明白。ただいま拘留中の藜調査員に尋問の最中です」
「あれはやり手やで?こっちが呑まれんように気ぃつけろよ?」
「勿論、心得ています」
「例の白杖で好き勝手やってるみたいだし、あれを野放しにしとくのは『使徒』より危険だぞ」
「だが全て人助けだというじゃないですか?」
「救っている人間が問題だ。全て大物ばかり、投資家や報道局、中には政界の者もいる。これ以上顔を広げられると動き辛い」
「確かに、少々制限をかけた方がいいな」
「意義なし」
「意義なし」
「分かりました。その方向で進めます。では次に、こちらをご覧ください」
諸々の話が済んだ後、大画面のモニターに、新種や危険度が更新されたモンスターの生態、生息域がスライド形式で映される。
「そしてこちらが、新たに登録された『白』、改め『使徒』の情報です」
亜門がリモコンを押すと、最初に出てきたのは、
「大阪にて出現。難波一帯を犠牲に、東条調査員とノエル調査員が撃破したキマイラ型モンスターです。個体名を、
採取した死滅後の細胞からは身体構造の異常が発見されました。そのためか特殊部位の確認は無し。
続きまして、沖縄で東条調査員、ノエル調査員が交戦したと思われる巨大植物型モンスター。個体名を、
他のモンスターを操り、沖縄から人間を全滅させた『使徒』と報告を受けました」
「何故映像がない?」
「魔素が消失したため、その余裕が無かったと」
「あの2人がか?何だその化物は?」
「押収した特殊部位は?これ以上あの2人に力をつけられれば、いよいよ国家の武力で対処出来なくなるぞ?」
「はい、厳重に保管しています」
藜の持つ白杖がアレなのだ。『使徒』の特殊部位がどれだけ危険かなど誰でも想像がつく。
多くの者が安心する中、1人の閣僚が目を細める。
「……くだらん。彼女が呼び寄せている以上、これはただのマッチポンプだろう」
その小さな愚痴に、誰もが口をつぐむ。
「見ろ。『逢魔』の出現で何人死んだ?もし2人があの日大阪にいなかったら、『ゼノ』は彼女を探して外に出ていた。周辺地域は血の海だぞ?そして極め付けは沖縄だ。県が1つ滅びたんだぞ?
確認されているこの3体だけでも、1歩間違えれば国が落ちていた。
……我々が撃破の都度彼女に感謝していたのは、彼女がこちら側だと思っていたからだ。それが元凶だと?ふざけるのも大概にしろ。今この時、この瞬間にも、国を滅ぼしかねない『使徒』が日本に向かっているかもしれないんだ。
我々のやるべきことは1つだろう?」
「……ああ、言われなくても分かっているさ」
「私達は今日、その話をするために集まったんだからな」
「しかし、彼らが調査員として利益を齎しているのもまた事実です。それにこれから先、彼女はいるだけで他国への牽制にも繋がります」
「他国を気にしている暇が今の我々にあると?」
「自国のために、諸刃の剣ならいざ知らず、制御不能の核爆弾を抱えろと?」
「存在からして、彼女を操るのは不可能ではないのか?」
「……うんうん。そもそもさ、東条くんとノエルくんが僕らに齎す利益って、主にモンスターの駆除と納品でしょ?それって十分他の調査員で補えるよね。
それに『使徒』の討伐で脚光を浴びてたわけだけど、それがノエルくんのせいだって分かった以上、損失というか、もう有り得ないくらいの脅威としか言えないんだよ」
彼らが落ち着くまで黙っていた亜門が、トントン、机を叩く。
「それでは、少し遅くなりましたが、本日の本題に入りたいと思います」
亜門の目配せに総理が頷く。
「……これより、『開闢の王』の1柱、個体名、『ノエル』の対策会議を始めます」
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