最終準備
――国道を爆走する1台の車。
「投げろ投げろ‼︎」
「ふっふっふっふっぃよっ!」
追いかけてくる小規模な狂ったモンスターの群れに、ピンの抜かれた手榴弾が次々と飛んでゆく。
瞬間、爆発、爆発、爆発、銃声、咆哮、爆発、銃声、銃声、爆発、咆哮――
「捕まれ‼︎」
「っ」「シュァ」
前方から来た獣型を跳ね飛ばし轢き殺し車は進む。
「だいぶ多くなってきたなっ」
「これでもまだ少ない方でしょっ。そろそろさっき補充した分も無くなるよっ」
「クソっ」
思ったよりも悪い状況に舌打ちする東条。
しかし考えてみれば、ここまで生きているのが凄いのだ。もっと自分達を褒めるべきだ。頑張れ俺。
「シャシャ」
「あ?どした」
「ん?」
そこで地図を見ていたノエルが、東条の肩と残弾を確認しリロードする灰音の肩を叩く。
「シュゥ、シャララ、シュルルルル」
「北部基地じゃなくて辺野古基地で籠城?何でだ?」
「あ、ここ武器弾薬庫か」
「シュルルル、シャァ、シシャ、シャシャシュ」
「なるほどね。それに後ろ崖でその下海だから、背後気にせず戦えるってわけか。オッケそれで行こう!流石だぜノエル‼︎」
「凄いよノエル!」
「シュッシュッシュ」
だとすれば目的地はもうすぐだ。
空の色が変わらないせいでわかり辛いが、現在時刻は22時。灰音も目に見えて疲労が溜まってきている。休ませてやりたい。
東条は窓の外をチラリと見てスピードを上げる。
周囲を見ていると分かる。
まだまだ本調子ではないが、段々とモンスターが起き始めているのだ。明日の朝には完全に動けるようになってもおかしくない。
それまでにはこちらも完全に準備を済ませておきたい。
「……」
……必ず、自分達目掛けてモンスターはやってくる。そのために、出来るだけの火力を掻き集めなければならない。
それにあの白い花だ。途轍もなくノロいが、確実に進んできている。あれに追いつかれた時点でゲームオーバー。ノエルの計算では明後日の朝には沖縄市を通過する見込み。
「(チッ)」
考えることと分かっていないことが多すぎる。加えて絶望的なまでのデバフだ。
……これは、本当に覚悟決めないとダメかもしれねぇな。
ベコベコに凹んだ車を走らせながら、東条はハンドルを握り締めた。
――辺野古基地に滑り込んだ車は、不規則に乱立するトレントを縫いながら進み、武器弾薬庫を探す。
人探しをしていた初日、ここにも1度来てはいた。
敷地内は約2週間と何も変わらず、足元にはくるぶし程の背丈の雑草が生い茂り、トレントが生え、施設は緑に呑まれている、そんな有様。
モンスターの死体も転がってはいるが、数は少ない。明日にはトレントが片付けてくれているだろう。
「ここか?」
「シュルァ」
東条は1つの穴の前、覆土式の建物の前で車を停め、降りる。
電池式ランタンを数個つけ、灰音と一緒にナイフで蔦を切りながら奥へ進むと、
「すっげ」
「シュァア」
「……うわぁ、」
そこには映画で見るような光景が広がっていた。
コンクリートの壁一面に立て掛けられた銃火器の数々。
張り巡らされる棚には木箱が、弾薬が、見渡す限りズラリと並んでいる。
所々に背の低いトレントがいる所を見るに、この中で最後まで戦っていた人もいたのだろう。
「ノエル、モンスターの気配は?」
「チロロ、チロロ……シァ」
ノエルが横に首を振る。
「よし。灰音、お前は寝ろ」
「え?」
東条はランタンを天井に掛け、銃を手に取り吟味しながら告げる。
「相当疲れてるだろ、顔に出てる。武器は使いやすそうなの選んどいてやるから、今は寝っ」
そこまで言い、肩を強く引かれ言葉を止める。
「……」
振り返ると、仏頂面の灰音が立っていた。可愛い。
「……マサ君、僕がそれに頷くと思う?これから準備するんでしょ?」
「そうだけど、お前今までこんな長く戦ったことないだろ?明日に備えて」
「嫌だよ」
「……」
キッ、と睨みつけてくる灰音に、東条は口を閉ざす。
「……君達が戦おうとしてるのに、僕が休むわけないだろ」
灰音は確固たる意志を目に、拳銃を持ち、グリップを確かめる。
「それに、残念だなぁ。君の目には、僕はそんなに弱い女に見えていたのか。……あぁ、残念だなぁ」
ニヤりと笑い、銃口を向けてくる彼女に、東条は軽く笑い手を上げる。
「分かった。俺が悪かった。……だから下ろしてくんね?ちょっと恐い」
「あ、ごめん」
互いに笑い合った所で、
「シュゥ」
「わ」「おっと、すまん」
邪魔だと言わんばかりに、ノエルが2人の間を通って棚へ向かう。
2人は器用に木箱を開け、弾薬を掴んではバッグに詰めてゆくノエルを見て、
「ふっ」「ふふ」
顔を見合わせ微笑んでから、各々武器を手に取り準備を始めるのだった。
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