10日目 異変の朝

 


 〜Day10〜



「…………」


 その日、ノエルはいつもより早く目を覚ました。


 ベッドから起き上がり、風に揺れるカーテンの外、寝室のベランダから遠くを見る灰音の隣に立つ。


「……おはよ、ノエル」


「……ん」


 いつもと変わらない朝。


 いつもと変わらない風景。


 平和な静寂の中に現れた、いつもとは違う気配。


「ノエルも気づいた?」


 遠くを見る灰音に、ノエルも頷く。


「……モンスター」


「だね」


 山に、森に、村に、至る所に確認出来る魔力反応。


 小さな島の小さな今日。穏やかな『いつも』に、現代の『普通』が帰ってきていた。



 ――「え?どゆこと?」


 1番遅くに目を覚ました東条は、朝食を食いながら目を丸くする。


「モンスターが帰ってきてたんだよ。僕も起きるまで気づかなかった」


「何でいきなり」


「さあ?」


「……」


 ノエルは食事の手を止め、コップに口をつける。


「……別に、ノエル達のいきなりが、モンスターのいきなりだとは限らない」


「まぁ、」


「ただの帰巣本能かもしれないし、人間の臭いを追ってきたのかも」


「あ〜ね」


 東条はフォークを置き、背もたれに寄りかかる。


「それで襲って来ないのは、警戒してるからか、バレてないからか。……ま、いいかっ。丁度良かったわ。なあ灰音?」


「あ、え?」


「昨日話したじゃん?これでモンスターと戦えるだろ」


「あー。確かに」


「ノエルそれ知らない」


 ぽん、と手を打つ灰音に、ノエルが眉を寄せる。


「べ、別に大したことじゃないって」


「怪しい」


 東条はそんな見苦しい嫉妬をケラケラと笑った。


「そう怒るなって、ちょっと2人で大人の階段上ってただけだから」


「マサ君?」


 灰音の目が細まる。その横でノエルの鼻がひくつく。


「……灰音匂いが違う。……発情の匂い」


「ノエル⁉︎」


「ほぉ?」


「ただの香水っ!変なこと言うな!」


 彼女は慌ててノエルの顔を遠ざける。


「てかノエルサラダ食べてないでしょっ、好き嫌いはダメだよ?」


「っむ」


「はい逃げない。口開けてねー」


「むーっ」


 1発で形成逆転した2人を笑いながら、東条は洗い物を始めるのだった。

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