7、8日目

 


 〜Day7〜



 ――「ノエルっ、マサ君っ、出来た!」


 それからというもの、練習を重ねた灰音はたった2日で魔力を理解し、身体強化を習得した。

 元から掴みかけていたのもあるが、脅威の上達速度だ。


 そして驚くことに、


「おめでと。でも灰音、それ『輪廻』って言ってな、身体強化の応用技なんだわ」


「あ、そーなの?」


 彼女の身体には、膨大な魔力がムラはあるものの確かに循環していた。


 東条は手を上げ首を振る。


「あーやだやだ、これだから天才は」


「え⁉︎……ノエル〜マサ君が酷いよぉ」


「仕方ない。マサは他人の成功を喜べない歪んだネットインキャみたいな性格してるから」


「おい、世のネットインキャに謝れ」




 〜Day8〜




「どうよ?強化と生身じゃ動きの制限がダンチだろ?」


「す、すご」


 軽く5、6mジャンプする灰音が身体の具合を確かめる。


「今日は組手形式で動きを矯正する。型は綺麗だから、それを実戦で使えるようにしろ」


「はい」


「んじゃ今から魔力が切れるまで俺に攻撃して来い。たまに反撃するからガードも忘れないように」


「はい!」


「うし来い!」


「――ッ」


 砂を蹴り抜き、灰音が低姿勢で突貫する。

 初日とは段違いのスピードから繰り出される正拳突きを、東条は初日と同じように片手で受け止めた。


 風圧で周囲の砂が弾ける。


「止めるな!」


「っ――ッ!」


 下段、上段突き軽く払う。


「腰を入れろ!もっと上半身の捻りを意識しろ!お前には空手って技術があんだろっ?身体が強化されたからって力に呑まれんな!」


「はいッ‼︎」


「っ」


 回転蹴りを両腕でガードした東条が少しだけスライドする。


「……今のは良かった」


「っうん!」


 汗を垂らす灰音は、その顔に楽し気な笑みを浮かべ走り出す。


 連続する衝突音。夏のビーチに乾いた音が響き、白砂が舞う。


「距離を取られたらどうする!違う!一足で踏み込め‼︎」


「――フゥッ」


「敵の足元をよく見ろ!着地を狙え!隙を逃すな!」


「ッ、――ッ、ッ‼︎」


「……、……――ッ」


 東条は軸足のブレた灰音に一瞬で肉薄し、


「――ひっ」


 ボディを抉るように刺す。直前で寸止めした。


「常に反撃を想定しろ‼︎敵はサンドバッグじゃねぇぞ‼︎」

「――ッ」


「拳を見るな‼︎全身を読め‼︎目線は⁉︎歩幅は⁉︎軸はどこにある⁉︎間合いはそれで良いのか⁉︎」


「っ、ッ、つッッ、」


「――そこで反撃‼︎」


「――ッアァッ‼︎」


 灰音の上下に構えた両拳が、彼の胸部を捉える。


 インパクト。吹っ飛んだ東条が岩壁に衝突しめり込んだ。


「ハァっ、ハァっ、ハァっ、んぐ、はぁ、はぁ、……フぅぅう」


「アっハハハハ!踏み込みが浅え!効かねぇなあ⁉︎」


「……はは、……タフすぎるって」


 荒い息を吐き汗を拭う灰音は、ぐるぐると腕を回す怪物に苦笑する。


「おら一撃入れたのに追撃なしか⁉︎チャンスじゃねぇのか⁉︎」


「――っフゥッ‼︎」


「そうだ休むな!まずは限界を探れ!ぶっ倒れてからが成長だ!安心しろノエルがいる!体調不良は気にするな‼︎」


「昭和ァア‼︎」


「ハハハハハハッ」



 激しい攻防、崩壊する岩場を、


「……青春」


 ノエルは似合わないサングラスをかけ眺めるのだった。アイス美味しい。

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