9日目

 〜Day9〜



 海で遊び、昼食を食べた後、今日も今日とて3人はビーチで特訓を行っていた。


 東条は昨日よりも少し速く、攻撃の手数を増やして相対する。


 ――ボディを払われ、顔面への上段突きにカウンターを合わせる。


「――ッ、マサ君はボクシング?ッ」


「我流っ」


 しかしそのカウンターにカウンターを合わせられ、躱しざまに1歩引くも、

 こちらのバックステップに踏み込みを合わせ、同時に距離を詰めてきた灰音。


 躊躇いなく放たれる顎への掌底を首を逸らして躱し、覆い被さるように右拳を振り下ろした。


「――っ」

「マジか⁉︎」


 当たると確信し、寸止めしようとした東条は、

 パンチの進行方向と同じ向きに一回転して威力をいなし、裏拳を放った灰音に驚愕する。


「あぅっ」


 しかし体勢の悪い状態で放ったせいで彼女は尻餅をつき、裏拳は宙を切った。


「いや〜、今のよく合わせたな」


「へへっ、からぶったけど」


 東条の手を掴み立ち上がる灰音は、お尻についた砂を払う。


 瞬間、2人の足元から蔓植物が飛び出した。


「っ、と」


「何で俺まで?」


 危なげなく跳躍して回避。


 サングラスを掛け仁王立ちするノエルを、東条はジト目で睨む。


「次ノエルの番」


「いや別に良いけど、何で俺まで?」


「よし来いノエル!」


「捕まったら灰音の負け」


「望むところさ!」


「おーい?」


 数10本の蔓が踊り、2人に襲いかかった。


 普通に無視され悲しくなる東条は、ギチギチと蔓に縛り上げられ、そのままビーチに首まで埋められる。


「……え、扱い酷くね?」


 キャっキャと走り回る2人を目に、乾いた砂を湿らせた。



 ――「肉食べたい」


 夕食の席、ノエルがタコのカルパッチョを頬張りながらぼやく。


「肉かー」


「いつも肉食ってんだから別に良いだろ」


 東条としてはこの食生活に何の不満もないのだが、どうやら口をへの字に曲げるこいつは違ったらしい。


 灰音は顎に指を当て考える。


「んー、……鶏とか豚なら歩いてることあるけど、」


「え、まだいるの?」


「見たことあるよ。野生化したの」


「ほー、んなら明日狩りに行くか」


「ん」


 灰音が驚いたように東条を見る。


「え、捌けるの?」


「一応な。肉しか要求されないから覚えた」


「へー、携帯食糧とか持たないんだ?」


「つまんねぇじゃん。モンスター食った方がおもろいし」


 灰音が硬直しフォークを落とす。


「え⁉︎モンスターって食べていいの⁉︎」


「あいつら結構美味いぞ。栄養価も高いって研究で発表されたし、国が推奨してる」


「……僕の知らないところで、どんどん日本がファンタジーになってる」


 唸る彼女を2人して笑う。


「迎え来る時どうせ本島戻るし、そん時食おうぜ?案外恐竜も美味かったぞ」


「た、食べたんだ……」


 食いしん坊なのか怖いもの知らずなのか、


「はは、お手柔らかに頼むよ」


 想像以上に野生的だった彼らに、灰音は苦笑した。

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