22話
「――ッアヒャヒャっ!」
「グギュ⁉︎アギャ⁉︎グギ⁉︎ギッ⁉︎ゲッ⁉︎ガッ⁉︎グッ⁉︎ゴッ⁉︎グキャ⁉︎ギャゲ⁉︎ベギョ⁉︎キョベゴギゲゴギュバガキャゲブゲロボエドブシャバルガジュマルミジュマル⁉︎」
その光景、まるで蟻の群れを横断する重戦車。
気配を感じました。なので殺しました。
過剰防衛をこれほど説明しやすい状況もなかなかない。
衝撃波を撒き散らしながら4足で爆走する東条の背中に、ノエルがストン、と座る。
「ゴー、ヤックル」
「誰がヤックルじゃ!」
跳躍から振り下ろされた両拳が、爆音を轟かせ群れの1部を吹き飛ばす。
土煙から飛び出す、祟り神に呪われたヤックル。
その背に跨るノエルの手には、限界まで引き絞られ、ギチギチと音を鳴らす木製の大弓。
狙いを定め、
「……ん」
――射。
ラプトルの首に吸い込まれた1本の矢は、何の抵抗もなくその首を貫通。
しただけで止まるわけもなく、直線上にある首を根こそぎ千切り飛ばしトレントに突き刺さった。
暴れ回る獣。
飛来する避けようのない凶矢。
混乱する恐竜。
ラプトルの救難要請に駆けつけたアロサウルスは、叫ぶ間も無く肉片と化し、
毒霧を撒き足止めを試みるディロフォサウルスは、ノエルの生成したアルカロイド爆弾によって軒並み痙攣し泡を吹いて絶命する。
「っキィっ」「キュゥッ」「キュイィ」
人獣一体のその化物に、ラプトルは遂に背を向け逃げ出した。
東条はノエルの投げた毒々しい球の痕を避け、逃げる群れを減速しながら追う。
「おいっ、今の何だよ⁉︎色ヤバかったぞ」
「アルカロイド爆弾」
「なんそれ」
「近くの空気吸うだけで機能不全引き起こす毒液を凝縮したやつ」
「お前俺の上で何作ってんの⁉︎」
「あ、垂れた」
「おぃい⁉︎」
「冗談」
振り落とそうと暴れる東条に、ノエルはガッシリとしがみつく。力が強すぎて漆黒が何枚か弾けた。
「マサ痙攣してない。効いてない証拠。安心して」
「出来るかボケが⁉︎このマスク取れたら俺即死じゃねぇか⁉︎」
「マサ毒恐くないって言ってた」
「俺はお前が恐いんだよ‼︎」
「……ありがと」
「なんで照れてんの⁉︎」
頬を染めてそっぽを向くノエルに、東条はもうやだとラプトルをぶん殴る。
「あ!そういえばマサ、気づいた?」
「……何が」
下手すぎる話の切り替え。俺じゃなくても見逃せない。
「シーサーの絵、色んなモンスターがいた」
「あー、確かに。それは気になってた」
あの絵では、モンスター全体が徒党を組み人間を殺しにかかっているように見えた。
本来敵である筈の多種族が、1つの標的に牙を剥いたのだ。それを出来るだけの実力を持つ存在が、ここにいると思っていたのだが。
初め到着した場所には、ゴブリンやコボルトなど、夥しい数の多種族の死体が転がっていた。
加えて襲ってくるのは恐竜型のみ。
「誇張か?」
「シーサーが?」
「まぁなー」
人間は得てして記憶に尾ひれをつける。その誇張を芸術に昇華したのが絵画だ。
モンスターであるシーサーが、そんなことをするとも思えない。
過去ここで起きた大戦では、確かに多種族が手を組んでいたのだろう。
「纏め役がいなくなったとか?」
「妥当」
「なら俺らの仕事無くなったけ――ッ」
瞬間、東条は首を傾ける。
前方から放たれたレーザーが頬を掠め、顔面部分の漆黒が数枚弾けた。
東条は跳躍を繰り返し、追ってくる水のレーザーを躱し続ける。
軌道をメチャクチャに曲げ、ラプトル、トレント、建築物、あらゆる物を両断するそれを、突き出した両手で受け止めた。
バパンッパンッパンパンパンパンパンパパパパパッ――
「っノエル!」
「ん」
加速度的に威力を増してくレーザーの横から顔を出したノエルが、森の奥に向かって矢を3本放つ。
風を切り超速で目標を穿つ矢はしかし、
「ゴォオオオアアアッッ‼︎」
「「っ」」
トレントを焼き倒し突っ込んできた巨体に、諸共全て燃やされてしまった。
「……」「……」
全身を轟々と炎上させる巨竜の後ろから、青い鱗を反射させ、更に一回りデカい竜が姿を表す。
「ォオオオッ」「キュオロロロ」
今までとは明らかに格が違う魔力と覇気に、東条はノエルを背中から下ろす。
ノエルも弓を捨て、手足をブラブラストレッチをする。
「……ま、そうこなくちゃつまらねぇわな」
笑う東条に、ノエルも笑った。
「合わせて」
「お前が合わせろ」
「ゴォオオオアアアッッ‼︎」「キュロロロロロロッッ‼︎」
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