6話



 枝に手をかけジャンプし、岩場を跳ね、草木を掻き分け、小川を飛び越える。


「「「キシシシシッ」」」


 追いかけて来る蜘蛛くも型モンスターの大群に背を向け、2人と1機は大地を駆けていた。


「っどくせぇな!どんだけ追ってくんだよ⁉︎」


「マサ上」


「わぁってるよ!」「グェ⁉︎」


 東条は空から弾丸の様に突っ込んできた鳥型の首を掴み、虫の大群の中にぶん投げる。


 ここのモンスターはどいつもこいつも、己より強い者を狩る為の、もしくはそんな奴らから身を守る為の術を心得ている。

 故に、問答無用で襲ってくる。


「もう良いだろノエル!」


 東条は待ち伏せていたモグラの様なモンスターをそのまま踏み潰し、木から木へと跳んでいるノエルに声を張り上げる。


「ん。だいぶ集まった」


 散っていた蜘蛛型が1箇所に集合したのを見計らい、ノエルは枝を蹴り空中でくるりと半回転、逆さのまま追って来る蜘蛛の方を向く。


「「「キシシシシシッッ」」」


 森を走る黒い波へ向けて、――彼女は両の指をクロスさせた。


 刹那、波が爆ぜる。


 ノエルのcellによって生み出された樹木が四方八方から蜘蛛を襲い、更に群れの中で枝分かれしメチャメチャに暴れ狂う。

 黒い甲殻が何百と宙に舞い、落ちてはすり潰されるその光景と地鳴りに、トレントは成す術なく呑まれ、カーニバルとモンスターは逃げて行く。


 東条はぬかるみ始めた地面を駆けながら、隣で根っこを必死に回転させ走るカーニバルをとりあえず殴り、落ちてきたノエルをキャッチした。


「ナーイス。見てみ、マングローブだ」


「おぉ〜、変な木いっぱい」


 水に浸った地面から伸びる、蛸足たこあしのトレント、もとい樹木。


「塩を分解するためにあんな形してるらしぞ」


「生命の神秘」


「んな」


 泥と川と変な形の木。沖縄と言われてこの光景を思い浮かべる者も少なくない筈だ。


 東条は濁った川を飛び越え、泥の上にノエルを下ろす。


「ペタペタ」


「……あの川には入りたくねぇなあ」


 魔力感知が大量の生態反応を感知している。というか目だけ出してこっち見てるモンスターもいる。ワニだろあれ。

 他にも泥の上を跳ねてる魚っぽい何かや、砂を口に入れては吐き出している片方のハサミだけデカいカニみたいのもいる。あ、ワニに食われた。


「本当に変なモンスターの宝庫だな……」


「見てマサっこの穴何かいる!」


 大きな穴に腕と木の棒を突っ込み掻き回しているノエルが、興奮したように手招きしている。


 まったく、なぜ子供というのは穴があったらすぐ物を突っ込むのだろうか?……と思ったが、大人も似たようなもんか。人間のさがだな。


「何がいるんだぁ?」


「ん……待って……今、よし掴んだ!」


「うし引っ張「りゃあっ!」――っれぇ⁉︎」


 ノエルが強引にソレを引っ張り出すと同時に、地面が少しだけ沈み、次いでひっくり返った。


「おまっ⁉︎」


「カニだ!」


「(ブクブクブク)」


 青空の下、地上に引きずり出された5m級のノコギリガザミの目が悲しげに潤んでいたのは、きっと気のせいだろう。


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