無事脱出に成功した藜組一行は、紫苑を病院に預けた後、近くの港へと足を運んでいた。



「……」



 夕日に背を向け、真狐は一人携帯を取り出す。


『よお、元気だったか?』


「あんたねぇ、元気なわけないでしょうよ?」


 スピーカーの奥で笑う藜に、真狐は唾を吐く。


『一先ずお疲れさん。新しい戸籍作っといたから、それ使ってゆっくり休んでくれ』


「……はぁ。真狐って名前気に入ってたんですけどね」


『10年くらい使ったか?長かったな』


「まぁ」


『今度本部に顔出すから、四人で飲もうぜ』



「別にいいですけど」



『……何だ、元気ねぇな』



「……」



『……あの2人の素性、分かったのか?』



 真狐は一度頭を掻き、水平線に溜息を漏らした。




「東条 桐将。21歳。趣味はアニメ、漫画、ライトノベル。家族構成は父と母の3人。実家の住所は〇〇。〇〇大3年、今は4年か。特区で仲間を全員失っとる。そこで彼女も失ってたわ。あの年で壮絶な経験をしてはるよ」



『そうか、……ノエルは?』




 真狐は眉間を抑え、乾いた笑いを浮かべる。




「東条君に触れた瞬間、気取られたんでね。ノエルちゃんに能力使うのはやめたんや。バレそうやったし……」




『……』



「……なぁ、藜の旦那」



『……何だ?』





「あの子、人ちゃうで。モンスターや」





『っ……本当か?』


「間違いないわ。俺の能力は人の経験を見る。東条君の視界には、でっかい蛇が映っとったわ」


『そうか、……そうか、……くふ、あははははっ!』


「何笑ってんねん、これヤバいで⁉︎」


『前から只者じゃねぇと思ってたが、そうか、人じゃねぇのかっ。そりゃ納得だ』


「どうするん?悪い子じゃなさそうやったけど」


『あ?当たり前だろ。あの2人は俺のダチだ。手ぇ出したら殺すぞ』


「いや何もしないけど」


『今回お前に調べさせたのも2人を守る為だ。

 下手な秘密はいつかバレちまう。そん時助けられるように、多少は知っときたかったのさ』


「ならそもそも、バレないようにしてあげればええのに」


『バレた時にあの2人の関係がどうなるのか、見てみたいんだよ。人とモンスターなら尚更だろ?』


「……旦那の性癖、それ歪んでるで?」


『歪んでねぇ人間なんていねぇよ。歪みこそが人を人たらしめる。俺はその歪みが大好きなだけだ』



「……はぁ。……あぁ、憂鬱や。あの2人これバレたら、俺殺されるんちゃいます?」


『そん時は拾ってモンスターの餌にしてやるよ』


「酷すぎるやろ。せめて墓に埋めてくださいよ」


『はははっ』



 真狐も微笑み、海鳥の鳴き声に空を仰ぐ。



『じゃあもう切るぜ?』


「あ、旦那」


『何だ?』


「……あの、鷹音ちゃんと、鶴音ちゃんの事、聞きました」


『そうか。……お前はよく懐かれてたからな。今度墓参り来てくれよ』


「勿論」


『じゃあな』


「はい」




 真狐は一息吐いた後、携帯と内蔵チップの両方を折り、海に投げ捨てた。

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