10話
「おーし。行くか」
「おー」
「……緊張する」
「まぁまぁ、気楽に行こうや。こっちには最強のお二人もついとるんやし」
東条は紫苑と頷き合い、両脚を漆黒で武装、携帯片手に物陰から跳躍した。
「行きます」
『作戦開始』
アジト唯一の入口は、一見崩れた様に見える一軒家の真下。確認出来る見張りは二人。隣の民家の窓の裏と、マンションの屋上。
「――っ」
まぁ気づかれるだろうが、関係ない。
「――っグゥえっ⁉︎」
逃げようとする見張りの背中に飛び降り、屋上を貫通して土煙を上げた。
「……生きては、いるな」
東条は四肢が変な方向に曲がって痙攣している見張りをノエルに投げ渡し、民家の方を見る。
そこから気絶した見張りを引き摺り、紫苑が出て来た。
「ぅし、突撃」
見張りの拘束をノエルに任せ、東条は扉となっている岩盤を踏み抜き爆砕した。
大型トラック三台程度なら余裕で通れそうな道幅と天井に、等間隔で壁に光源が嵌め込まれている。
地下は蟻の巣の様に入り組んでおり、構成員でなければ確実に迷ってしまうだろう。
「ほな、こっからは俺が案内しますわ」
「おねしゃす」
ノエルが入口に蓋をした後、先頭を歩く真狐に三人は着いて行く。
「これ下水とか地下施設にぶつかったりしないんすか?」
「ぶつかる度に魔法で壊して作り直したんよー」
「はぇ〜、大掛かりなこった」
四人は反響する靴音を耳に、他愛のない会話をしながら小走りを続ける。
「……」
予想より暇な道程に、東条はノエルを見る。
厳密にはノエルの横を走る、頭にカメラの付いた小さなゴーレムを見る。
何だこれ。
「……何それ?」
「作った。自立型ゴーレム」
「すげぇな」
「自分で最適な画角に移動するし、危なくなったらカメラ包んで防御形態に入るし、多分マサが本気で殴っても何回か耐える」
「現代技術超えてね?」
いつの間にそんな物を。ゴーレムの原理は全く分からないが、凄い事は確かだ。
しかし、……何だかなー、
(……完全に映画泥棒なんだよな)
今にも変な動きで動きで踊り出しそうだ。
見つめているとゴーレムと目?が合ってしまい、東条は気まずげに顔を逸らす。
「……名前はあるん?」
「映画泥棒」
「映画泥棒じゃん」
映画泥棒だった。
――東条の方向感覚がぶっ壊れてきた頃、地下内のピリついた空気が急速に濃くなってきた。
ボスがモンスターを放ったのか、何かが蠢く気配も大量に感じる。
彼は真狐の隣に並び、前を見据える。
「来るぞー」
「え⁉︎早っ、……しゃーない、ちょっと遠回りになるけど道変えるわ」
「えーやだ」
曲がろうとした真狐の襟首を、ジャンプしたノエルが引っ掴む。
「グェッ⁉︎何で⁉︎うわ、めっちゃ嫌そうな顔!」
ノエルは眉間に皺を寄せ、口を尖らせ最大の抗議をその顔だけで表現していた。
「つまんない」
「そういう次元ちゃうくない⁉︎モンスターアホみたいにおるんよ⁉︎」
「面白そう」
「ダメだこの人⁉︎話通じへん‼︎」
「来るぞー」
「マサはんももっと焦って⁉︎」
真狐が駄々をこね暴れるも、……時既に遅し。
「ギャラララッグボルルッバラヤリャッオルォオオッブるアアコボルベアがばるドブルベもおォオんガバじゃがるババんぶるすすデルベンドアバンギャルドバドミントンごオラァァアンブロシアバルルルゲランドブルすベルバンドカノジョホシイィイイあァアッッ‼︎」
「キャァアアアアアアっ⁉︎」
数百m先の横穴から暴れ狂う津波の如く雪崩れ込んできたモンスターが、四人を発見し潰し合いながら迫ってくる。
あまりの光景に叫び散らす真狐。
そんな彼を手を叩きながら笑うノエル。
ちょっと本気で逃げ出したくなっている紫苑。
三人を背に、東条は左足を半歩後ろへ引いた。
「……カオナシ?」
「もうちょい下がって」
「あ、ああ」
「ノエル、壁の補強頼む」
「ん」
ノエルが壁面に手を触れるのを見計らい、東条は背中から触手の様な形状の漆黒を十本伸ばし、地面にひっつかせる。
と同時に、右腕を前に突き出し、そこに残りの漆黒を全て凝縮した。
「……」「……」
彼の腕に武装された、数mの巨大な重砲。その砲身から更に支えが地面に伸びる。
モンスターの波はすぐそこまで迫っている。
――大口を開ける化物。
――意思のない瞳。
――立ちはだかる肉の壁。
血に飢えた牙が四人を噛み砕こうとした。
――瞬間、
――ッッッッッッォォォオオオオンッ‼︎‼︎‼︎‼︎
「「「――ッ」」」
臓器が揺れ、心臓が痛くなる程の重低音と共に、眼前のモンスターが瞬きの内に消し飛んだ。
否、内側から爆散し、弾け飛んだ。
東条を中心に地面には亀裂が入り、真狐と紫苑は体内を直接揺らされた影響で壁際で吐いている。
圧縮され、指向性を持った破壊的衝撃波が、ソニックブームを起こし空間を蹂躙した後に残るのは、真っ赤に染まり、血肉を滴らせるトンネルの口。
「痛ってぇ、割合ミスった」
右腕を振る東条に、ひょこひょこ歩くノエルが寄りかかる。
「お腹ぐわんぐわんしてる。変な感じ」
「わりぃな、音抑えたつもりだったんだけど、流石に無理めだったわ」
「ノエルいなかったら今頃生き埋め」
「そんときゃそん時よ」
東条は両手を突き出すノエルをおんぶし、二人を振り返る。
「大丈夫か?先行くぞ」
「……」「……」
ピチャピチャと血の中を進むその男が、
二人には自分と同じ生き物に見えなかった。
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