48話

 


 ――「……すごい」


 渡真利含め隊の皆は、目の前に広がるこの世ならざる光景に唖然としていた。

 能力を完璧に制御した千軸は、味方に一切の影響を与えなかったのだ。


 後に残るのは、一直線に割れた大地と、天から降り注ぐ灰と塵のみ。


 領域に入ってしまった憐れなゴリラは、一箇所に積もった塵を残し、跡形も無く消し飛んでしまった。



 そこで世界が戻り、元の荒れたグラウンドが姿を表す。


 今し方千軸が創りあげた世界は、一種の『異世界』の完成形とも言える。

 その世界は現実に影響を及ぼす事はなく、彼の領域内だけで事象が完結していた。


「っ隊長!――っ」


 文字通り燃え尽きた千軸から力が抜ける。

 渡真利はそんな彼を支え、そして絶句した。


 千軸の顔の右半分は灰色に罅割れ、自分の支えていた右半身からは煙が上がっている。

 驚きと状況に痛みを忘れていたのか、見れば自分の掌も大火傷を負っていた。


「隊長!起きて下さい!千軸隊長‼︎」


「…………コヒュー、カハっ……ぼ、うそ、う、は、ヒュー」


「(ホっ)……していないみたいです」


「ヒュー、……ヒュー……」


「……流石です。隊長」


 渡真利は目尻に涙を浮かべ、千軸の髪を優しく撫でる。


 今にも死にそうな、優しくて最強な自分達のヒーローを、心の底から賞賛した。


 上位種と司令塔が居なくなり、猿供は蜘蛛の子を散らす様に逃げ始める。


 生存者と隊員達は、長い永い戦いがようやく終わったと悟り、腰が砕けたように座り込んだ。


 ある者は茫然自失と涙を流し、ある者は抱き合い涙を流す。隊員達もお互に手を組み、死線を乗り越えた事に喜び合った。


 渡真利も叫び威嚇する猿を無視し、地面に腰を下ろし千軸に包帯を巻いていく。


 誰もが絶望から目を逸らし、これからの未来に明るい涙を流していた、そんな時、






「ブルゴァアアアッッッ‼︎‼︎」






 絶望の象徴が、塵の中より這い出でた。


 全身がドロドロに焼け爛れ、一部炭化したその様相は、正に地獄より蘇った悪鬼のそれであった。

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