4話
――集合し整列した隊員達が、亜門の言葉と共に改めて作戦内容を確認する。
「我々は三十人から成る先遣隊だ。任務は三つ。
・トレントを伐採し、後から来る運搬車両の為の、八m幅の道を造る。
・大学到着後、三部隊に別れ、彦根隊が大学の防衛。千軸隊と亜門隊がそれぞれ、私の耳と、レーダー、協力者からの情報を元に、山手線内に隠れている被災者を救出に行く。
・全部隊大学にて合流後、本部に連絡。車両の護衛と共に帰還。
となる」
誰かが唾を飲む。
「……正直言って、途轍もなく危険な任務だ。
池袋周辺に行った事のある皆なら分かると思うが、あそこは魔境だ。死にかけた者も少なくないはずだ。現に私も、腕が千切れかけたしな」
今は完治している腕をプラプラと振って見せる亜門に、小さな笑いが起きる。
「……だが、この任務を遂行できるのは、今この国に我々しかいない。……気合入れろよ」
「「「「はっ!」」」」
彼等の返事に、亜門は満足気に微笑んだ。
岩国は未来の英雄達を目に映し、口を開く。
「諸君!ようやくこの時がきた!
……あの忌々しき日に、我々は大義名分を語り、善良な一般市民を地獄に置き去りにした。この罪は二度と消えぬ。二度と許されぬ。
しかしっ!、
我々は国の剣だっ、国の盾だ!この手がどれ程汚泥に塗れようと、その手で人民を救う義務がある!
心せよ‼これは贖罪ではない!使命だ‼これ以上誰も死なせるなッ、そして誰も死ぬなッ、その上で命を賭して使命を完遂し、帰還しろ‼」
「「「「ハッ‼」」」」
全隊の士気は最高潮に達し、興奮から漏れ出る魔力が空気を震わせる。
岩国はそんな彼等を見て、安心して一度目を閉じた。
深呼吸し、再び彼等を見据える。
眼前に揃うのは、現時点、国内最強の戦闘部隊。
彼等に不可能など――ない!
「作戦、開始‼」
その言葉を受け、今、あのクリスマス以降、初めての作戦行動が開始された。
――「あーあ、おニューの靴がいきなりびちゃびちゃだよ」
緑化地帯の手前。三角形に組んだ陣形の先頭に立つ彦根が、防水とは言え濡れてしまったブーツにしょんぼりする。
「彦根隊長、時間です」
「分かってるよ。それじゃあ、……行こうか」
彦根が腕を上げると同時に、周囲の建物や道路から、割れたガラス片がカタカタと動き出す。
彼の頭上に収束するそれらは、液体となり、一つの巨大なガラス玉となっていく。
「はい」
ヒンッ
彼の腕が無造作に振るわれた瞬間、ガラス玉は極薄の凶刃と化し、空気を裂く音を残して地面すれすれ林の中へ消えて行った。
数秒後、戻ってきたガラスがグニグニと彦根の周りを浮遊するのを確認し、陣形を維持したまま彼等は歩き出す。
「土壁用意」
亜門の指示を受け、三角形の中心部にいた一人が魔法を行使した。
二枚の縦向きの土壁が進行方向に出現し、左右に離れていく。
邪魔なトレントは抵抗なく倒れ、土壁は八mの幅を確保したところで停止。
後に残るのは、両側に頑丈な壁を有した一本道である。
大学までは約二㎞。一度で作れる道が約五m。単純計算で、同じことを四百回しないといけないことになる。
只の土壁は魔力消費が少ない。土魔法使いは四人。今日中に到着がベスト、明日の昼が最終ラインといったところだ。
周りを警戒しながら、彼等は特区へと入っていった。
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