3話

 

「岩国大臣」


「何だ、亜門か。準備できたのか?」


「はっ。全隊準備完了しております」


「そうか。……では始めるか」


「それと」


「ん?」


「これを預かって貰えないでしょうか」


 岩国は、手渡された美少女が描かれたDVDカバーを訝し気に見る。


「なんだぁこりゃ」


「……千軸です」


「あんのバカっ」


 二人揃って頭を抱える。


「……ほんと頼むぞ亜門。あいつ等御せんのお前くらいなんだから」


「努力はしてます。それに、しっかり仕事はやる奴等なので」


「もし暴走したら、ぶん殴ってでも止めてくれよ」


「……今回みたいな小さな暴走なら、幾らでも止めます。けど、本当にcellが暴走した時は、正直確約しかねます」


 嘘をつかない亜門の神妙な表情に、岩国も言葉を詰まらせる。


「……俺はまだまだ魔力とか魔法とか、上手く扱えねぇから分からねぇけどよ、やっぱり凄いのか?あの二人は」


「凄いですね。特区で訓練を積むまでは私に分がありましたが、今では本気でやらないと距離を詰めることも出来ません」


「確かに。千軸のcellとお前じゃ、相性悪いしな」


「いえ。千軸なら、死ぬ気で行けば相打ちには持っていけます。それこそ私も瀕死の重傷を負うでしょうが、」


 岩国が少々驚く。


「彦根がそんなにヤバいのか?あいつ人懐っこいし、誠実で可愛い奴だと思ってたんだが」


「はい。私も彦根は良い奴だと思います。でも、多分暴走するとしたら彦根の方です。


 ……あいつの心の闇は、俺達の誰よりも深い気がします」


「……なぜそう思う?」


「笑うんですよ、あいつは」


「?確かに、彦根はよく笑うな」


 亜門は首を横に振る。


「普段のは作り笑顔です。彼は常に冷めていて、全てを俯瞰している。

 ……でも、あいつはモンスターを殺す時、一瞬だけ、心の底から笑うんです。楽しさと憎しみが介在した、とても黒い笑顔で」


 亜門は思い出す。初めて彼のを見た時の、芯から凍えたあの感触を。


「……それは、知らなかったな」


「それに、彼は恐らく、私との手合わせの時もわざと手加減しています」


 岩国の表情が険しくなる。


「それは、何か隠している事があるということか?」


 あれ程の力、国の手にある内はいい。しかしもし、意志を持って牙を剥かれた場合、どれ程の被害が出るか想像がつかない。


 だがそんな心配を、亜門は笑って否定する。


「いえ。力を隠しているのは事実でしょうが、単純に、本気を出せば私が死んでしまうからだと思います」


「……それ程か」


 岩国は背凭れに寄りかかる。


「はい。……もし彦根に本気を出させたいなら、あの二人を引っ張って来るしかないでしょうね」


「……お前から見て、彼の二人はどれ程だ?我が国で対処可能か?」


「……そうですね、……画面越しでしたし、私の目が可笑しくなっていただけかもしれませんが、



 ……あれは化物ですね」



 亜門は乾いた笑みを浮かべた。

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