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 二人が教室を出て少し歩くと、曲がった角で朧とばったりと鉢合わせた。


「よう」


「おはようございます。あの動画見ました?」


「勿論。今から新に会いに行くところ」


「あぁ、……どうりで、……」


 朧は殺気だつノエルをちらりと見て、目を逸らす。


「やっぱり、あいつが一人で辿り着いたわけじゃないんですね。情報売ってるとこ見られたとか?

 なんて、あんた等に限ってそんなことないと思うけど」


「……」「……」


「……マジですか。何やってんですか?」


 朧は同時に目を逸らす二人に呆れる。百m先の自分に気付いたのに、新一人に盗聴を許したと?


「返す言葉もありません」


「……まぁ、俺には何の関係もない事ですから。新ならグランドで身体強化教えてますよ」


 そう言って朧は二人に背を向けた。


「サンキューな」


「感謝」


 手を振る朧に礼を言い、二人はグランド目指して歩を進めた。





 §





 新は大勢の戦闘員が魔力操作に苦戦する中、自分のスマホに目を落としていた。


(……消されたか)


 彼が早朝に上げた動画は、二時間もしない内にアカウントと一緒に削除されてしまった。

 昨日の会話を聞いていた彼は、どうせ国が圧力をかけたのだろう予想を付ける。


(……まぁ、あれだけ視聴されたんだ。困ってる人にも届くだろ)


 最後に新が見た動画の視聴回数は、八百万を越えた所だった。これだけ見られていれば、間違いなく保存されている。


 彼がスマホをポケットに仕舞う。と同時に、遠方から途轍もない魔力の圧を感じ、顔を上げた。


 魔力操作を覚え、感覚が強化された今だから分かる。


「……ふっ。(俺は彼を、何も正しく見れていなかったんだな。力も、……人間性も)」


 悠々と歩いてくる二人に向かって、新は堂々と一歩を踏み出した。





 §





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