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――岸に上がった筏から降り、開けられた入口を潜る。
中には既に沢山の人間が待っていた。朧と『馬場さん』の姿もある。しかし誰よりも速く駆けてきたのは、自分が貸したジャンパーを着る先の女学生であった。
「まささん!ノエルさん!おかえりなさい!その方々は……、それに、そんなに沢山の食料まで!本当に、本当に有難うございますっ」
「おう、ただいま。先ずはこの人たちにシャワーと清潔な服を、それから食事だな。頼めるか?」
「あ、はい!勿論です!すぐに準備します!どうぞ此方へ」
友達を数人連れ女性達を案内する彼女。
「それじゃあまささん、また後で」
「また後でっす‼」
「ほーい。……あ、そうだ、君」
「はい?」
忘れていた、と女学生を呼び止める。
「ジャンパーもういいか?寒くてしょうがねぇんだ」
「あ……はい」
一瞬躊躇う様に、ぎゅっ、と裾を握った彼女は、名残り惜しそうにファスナーを下ろし元の主に返した。
「あ、あの、私、汗かいてて、臭いかもしれなくて、やっぱり洗って返したほうがっ」
「ん?(くんくん)寧ろいい匂いするぜ?それにJKの汗の香りだろ?洗って堪るか」
一気に頬を紅潮させる彼女が、俯きがちに東条を睨む。
「……それは、変態です」
「おうとも俺は変態……あら」
走って行ってしまった彼女に頬を掻く。
「まさ、キッショイ。ちゃんと撮っておいた」
ノエルに溜息を吐かれる。
「あれはないな。軽蔑と嫌悪に吐き気がした。あんたに師事した自分が心配になってきましたよ」
「言いすぎじゃね?……ちゃんと言った事はやってるみたいだな」
「……当たり前でしょ」
冷めた目を向ける朧だが、全力の身体強化はちゃんと維持している。よく見れば一人だけかなり薄着だし、首筋には汗が滴っている。関心関心。
そして、
「女子の前で、それも公衆の面前で、本人の汗の臭いを嗅ぐなんて……私なら頸椎に一撃入れてるね」
馬場さんに笑われる。
「まぁ過ぎた事はしょうがないですし、馬場さん、これくらいでどうですか?」
筏に山の様に積まれた日用品を指さす。
「ああ、想像以上だ。有難う」
「それと、新諸々の姿がありませんけど、どっか行ってるんですか?」
「食料調達に行ってるよ」
「なるほど、いいタイミングだ。……では」
「ハハっ、さっそくか?」
「当たり前でしょ。俺が何の為にこんな頑張ったと思ってるんですか」
「……ふっ、それもそうだな。朧、この日用品運んどいてくれ」
「?いいですけど」
「じゃあまさ、ノエル、行こうか」
「――ッシャアッ」「ん」
馬場に連れられ校舎に向かう途中、毒島がそそくさと寄ってくる。
「お前もあれの手伝いしとけ」
「え、だけど」
(邪・魔・す・る・な‼)
「――ッ⁉わ、分かったぜっ」
東条に殺気に近い魔力を当てられた毒島は、全力で朧の手伝いに向って行った。
悪いとは思うが、しょうがない事なのだ。最も優先させるべき仕事が、今の自分にはある。許せ毒島。
三人は人気のない校舎へと、静かに消えていった。
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