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「友達って何?」
「いきなりどうした」
洗濯機の上にリュックを置き、その上に座るノエルが、ワニ足を担いで釣糸を垂らす。
「新が言ってた。まさは友達って」
「あー」
そういえば言っていた気がする。友達の頼みがどうとか。
「友達の定義ってムズイよな。どっからが友達なのか、俺も未だに分からんわ」
「……友情の有無は、自己犠牲が払えるかで決まるんだって」
「Wiki?」
「Wiki」
東条は落ちていた瓦礫を蹴っ飛ばす。
「じゃあ俺友達いないじゃんっ」
「心配ない。ノエルがいる」
「Yeah~」
「Yeah~」
後ろに向けた拳に、小さな拳がぶつけられた。
「ノエルとまさは友達なの?」
「相棒じゃなかったっけ」
「ペットと主人でもある」
「複雑だな」
「一緒にいて楽しかったら何でもいい」
「間違いねぇ!」
「グララララ」「ゼハハハハ」
呑気な笑い声と共に、針に掛かったヴァックリンが大きく跳ねた。
――それから二人は暫くのんびりと大通りを進み、途中で斜めにズレ、直線で東京タワーを目指した。
建物の屋根を跳躍し、ビルを突き抜け、丘に着地する。
ミノタウロスと戦った時に気付いたことだが、漆黒の移動が遅くなるのは、あくまで自分が纏う漆黒と切り離して操作する時。
今で言えば、頭部の漆黒と洗濯機を運ぶ漆黒を連結すれば、同じ速度で移動できるということだ。少々不格好にはなるが。
自分の身体と接触している漆黒に繋がっている限り、それは自分の一部という認識になるのだろう。
そんな事を考えながらピョンピョンし続け、タワーまであと五百mちょっとというところ。
支えが折れ崩れ落ちた首都高速の辺りから、何やら不思議な音が聞こえてくる。
確かここら辺には……。
「これ何の絵だ?」
「エビ?」
開いた地図に沢山描かれているのは、エビの様な恐らく甲殻類の生物。
響いてくる音が一種類ではないのが気になる。
とりあえず確かめようと瓦礫をに飛び乗り向こう側を覗き、
「うぉっ」
その光景に目を見開いた。
何匹いるのか数えるのも嫌になる、視界を埋め尽くす程の赤。
ざらついた甲殻に細長い十本の足。特徴的なのは、一際長く発達した第一脚だ。
うぞうぞカチカチと鳴る
ならもう一つの不思議な音は。
「……あれか」
「可愛い」
化けザリガニに追いやられるように密集する、スベスベのサンショウウオの様な生物。
ぷっくりとした体つきに、ゴマを彷彿とさせる小っちゃな瞳。
何より、二本足で立ち両手を広げるその姿が、絶妙に愛くるしい。
「ヌイ~」 「ヌイ~」 「ヌイィ」 「ヌゥウ」 「ヌ~ム」 「ムヌムヌ」
「ヌゥム」 「ヌイ~ヌムヌム」 「ム~ヌムヌ」 「ヌム!」
独特な声の正体は、彼等の必死の威嚇によるものであった。
現状を推察するに、化けザリガニにサンショウウオが追い詰められているのだろう。
能力か特性かはよく分からないが、サンショウウオは皮膚から粘性の物質を分泌して足止めをしているようだ。
だがそれも時間の問題。よく見れば、彼等の後ろには子サンショウウオがいる。
自らを盾にして子を守る親。何とも健気だ。
「どうする?今なら気付かれてないぜ?」
「やだ。あの子達助ける」
本来目の前で起きている事は自然の摂理。手を出すべきではないのだろうが、
「まぁ、可愛いしな」
「ん」
それだけで理由は充分。
摂理を説くなら、東条とノエルという存在に鉢合わせたザリガニもまた、その悲運を受け入れなくてはならない。
「そうだ、あれ使おうぜ?」
「ふふっ、賛成」
スベスベサンショウウオを助けることにした二人は、顔を見合わせリュックを漁り出した。
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