三章 友

40

 


 翌朝、宛がわれた教室で目を覚ました二人は、寝袋から這い出した後朝食を貰うべく大体育館に向かっていた。


「あれに並ぶのか」


「めんどくさ。コンビニ行こ?」


 長蛇の列を見て並ぶ気を無くしたノエルが、腹を鳴らして駄々をこねる。


「ここらのコンビニ漁り尽くされてるって話だったろ」


「うーー」


 不承不承と最後尾に付いたノエルの気を紛らわせるため、簡単な指遊びをしていると、


「あの、すみません」


 自分達の後ろに並んだJKの集団が話しかけてきた。


 先頭の一人がスマホを両手で握りしめ、残りはその子の後ろでじっとこちらを見ている。


「はい?」


「私達と写真を撮っていただけませんか‼」


 思いっきり頭を下げる彼女達に少々面食らうが、そういうことなら仕方ない。

 というか大歓迎だ。


 人生で三度あると言われるモテキ。遂に自分の所にも来たか、と東条は心の中でガッツポーズをした。


「全然いいっすよ。ノエルは?」


「ん」


 二人の了承が得られたことに、JK達が手を取ってキャッキャと喜ぶ。


「有難うございます!やった!」


「よくやったわ!」


「殴られなくてよかったね!」


「うん!」


 何やら誤解混じりの会話が聞こえてくるのだが。初対面のJKを殴るわけがないだろう。


「おいおい、俺はそんなサイコパスじゃないぜ?」


「す、すみません。でもやっぱり、ちょっと怖くて」


 苦笑する彼女に、つい笑いが漏れる。


「じゃあそんな勇気ある君を称して、好きなだけ撮るがいいさ!」


「有難うございます!じゃあツーショットからっ」


「来い来い。苦しゅうないぞ!」


「ピース」


「ピース」


「……女に甘い」


 鼻の下を伸ばしているのが目に見える彼の姿に、ノエルは深い溜息を吐いた。



 ――個人、全員、と撮り終わっても、列の先までまだ長い。


「カオナシっち筋肉凄いよね。身体触らせてー」


「存分に触るがいい」


 ジャンパーを脱ぐとすかさず抱き着いてきたギャルに、変な笑いが漏れてしまう。


「ムキムキー!凄い凄い」


「えー?ほんとだ!」


「ヤバ!」


(何だここ。天国か?)


「ノエルちゃんのもち肌の方がヤバいし!」


「ホントなにこれ?人間?」


「化粧品何使ってるの?」


まにもつかっえあい何も使ってない


「「「えー⁉」」」


(……姦しい)


 高笑いを浮かべる東条の隣で、ノエルもまた彼女達に大人気であった。




 ――(白飯と汁物、少しのおかず。やっぱ豪華だな)


「……足りない」


 朝ご飯は大事というし、一番気を使っているのかもしれない。貰った食事に別々の感想を抱いていると、


「カオナシさーん。ノエルちゃーん。一緒に食べよー」


 先の彼女達に誘われ、日向の下、ブルーシートの上で一緒に食事をとることになった。


 ――「そのカメラってずっと回してるの?」


「JKは需要が高い。視聴率稼げる」


「酷いっ。私達の身体が目当てなのね!」


「それにしか興味ない」


「「「キャー!」」」



「ノエルちゃんとカオナシさんってどういう関係なの?」


「親子?」


「ちゃうちゃう、飼い主とペットみたいなもんだ」


「勿論ノエルが飼い主」


「はっはっ、ほざけ」


 二人のフレンドリーさと漫才染みたやり取りに笑いが起こる。


「我儘だし食欲バグってるし大変なんよこいつ」


「まさだって勝手に荷物の中にエロ本詰めるのやめてほしい。捨てるの面倒」


「それここで言う⁉あと毎度毎度そっと捨てんのやめろよ!親に見つかったみたいで気まずいんだよ!」


「「「ははははっ」」」


 開けた体育館前の一角で楽しく談笑している彼等。

 その声は響き、当然周りの者にも聞こえてくる。


 殆どの人がJK達を羨ましそうに見ていたが、中にはそれを不快と感じる者もいる。


 数人の大人達は舌打ちをし、尚も騒がしいブルーシートに近づいていった。

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