33
腹が減ったという東条とノエル意見によって、適当な店に入ることになった。
二人共例の服は脱ぎ捨て、元の白黒に戻っている。
「こんな風にちゃんと店で食べるの、久しぶりです。あ、私は光明院 新と申します」
「
「
ソワソワした三人が自己紹介を始める。
「ノエル」
「歩き回っている身としては、色んな店で勝手に飯食えるの楽しいんですよ。
私はまさです。呼び方はカオナシでもまさでも、どっちでもいいですよ」
「動画ではモザイクかけてますけど、いいんですか?」
「一応ってだけなんで、構いませんよ」
席の土埃を払い、厨房を確認する。
「とりあえずあるもの温めてきますわ」
「俺も手伝います」
「私も」
「じゃあ俺も」
「早めによろ」
さも当然かのようにパソコンを弄るノエルを置いて、彼等は各々食べれえそうな物を物色し始めた。
用意した食事を囲み、今までのお互いの経緯や雑談を交わしていく。
「まさか新さんが次の目的地の代表だったとは、驚きました」
「ではやはり、明海大学に向かっている途中だったのですね!」
「え、えぇ」
嬉しそうに笑顔を作る彼に、東条は引き気味に頷く。
「藜組の方々に聞いて、向かっている最中でした」
「……藜組の」
その名前を聞いた途端、見るからに笑顔が曇った。表情豊かなことだ。
(……なるほどね)
東条は察する。
わざと藜組の名前を出してみたが、聞いただけでこれだ。相当な善人さんのようだ。
別にその点は何とも思わない。ヤクザを嫌う人間は多いだろうし、自分だって利益と安全が無い限り出来れば付き合いたくはない。
ただ、善人は得てして自らの優しさを押し付ける。それが万人の為になると信じて。
目の前の男が善なのか偽善なのか、自分はそれが知りたい。
(……まぁ、会って数十分で分かれば苦労ないわな)
自分に藜のような洞察力はない。適当に見極めていこうと決めた。
「彼等とは価値観が合いませんでしたが、そうですか……。私達のことをまささん方に教えてくれたのには、感謝しなければいけませんね」
納得した新は、東条の目を見つめる。
「俺は、他人の為にこの危険地帯を歩くあなた方を尊敬しています。動画も見させてもらいました。
皆が触れ易い媒体で現状の説明をし、被害にあっていない地域との協力を惜しまない。短期間でここまでの行動を起こせるのには、流石の一言です。
世間にはまささん達の動画を非難する人もいますが、俺は彼等の方こそ今の世界を直視するべきだと思っています」
(……俺非難されてたんだ)
「改めてお願いします。今避難している方達がもっと安心して過ごせるように、お腹いっぱい食べられるように、どうか協力をお願いします」
新に続き、三人が頭を下げる。
その綺麗な信条を、東条は冷めた瞳で見下ろした。
(あーー、勘違い系主人公だ)
手段と目的を入れ替え、自分風にアレンジして突き付けてきた。
やめるんだノエル、そんな顔をすると好感度が下がるぞ。
自分も、はいそうですね、と流したいところではあるが、正直ここまで清々しい善意には少し懐かしさすら感じてしまう。
……嘗ての眼鏡な店員も、人の笑顔を至上の喜びとしている変態だった。
「頭下げるとかやめて下さい。俺はそんな高尚な人間じゃないですけど、食料持ってく程度なら喜んでさせてもらいますよ」
「ありがとうございます!」
新の笑みが眩しい。
「あと年も近そうですし、タメでいいですよ。俺もそっちの方が楽なんで」
「……分かった。宜しく頼むよ」
二人の手が交差した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます