7話

 

「……えっぐ……」


 凄惨な現場を目の当たりにした東条は、肉を食うのを止め、此方に歩いてくる少女に戦慄する。


「おまた」


「お、おう。お疲れさん」


「あーっ、先に食べてる!」


「いや、これはあれだ、映画にコーラとポップコーンがないとダメな感じの、あれだ。ノエルの姿がカッコよすぎてつい、な?」


 焦り気味に弁明する東条の視界の端では、常に一凛の大きな薔薇が存在を主張している。


「むー。許す」


「あざす」


 優しい少女で本当に良かった。……本当に。




 ――「うめぇうめぇ」


「うみゃいうみゃい」


 持ってきた塩を振り掛け、パリパリの皮と程良くしまった肉に舌鼓を打つ。

 骨を持ってかぶりつき、捨ててはもぎ取りかぶりつく。口の周りを汚しながら手掴みで噛み千切るのが、骨付き肉の一番おいしい食べ方である。


「そういやあの技何よ?」


「んむんむ、ンぐ、必殺技」


 しっかりと呑み込んだ後、油べとべとの手でピースを作る。


「かっこいいだしょ」


「かっこいいだわ。いつの間に?」


「一日一個作ってた」


「めっちゃあるじゃん」


 必殺技とはそんなに簡単に作れるものなのだろうか……。疑問は尽きないが、東条もそのロマンには大いに共感できる。だからこそ、


「いいな~。俺も考えたことあるけどよぉ、派手な技がねぇんだよぉ」


「まさのパンチは充分派手」


「華がねぇ」


「確かに」


 自分の技に名前をつけるとなると、『ぶっ飛ばし』とか『ぶん殴り』になってしまう。それではあまりにダサい、ダサすぎる。なのにノエルときたら、


「『ロゼ』ってなんだよ~めっちゃカッコいいじゃ~ん」


「うぇへへ」


 ゴロゴロと転がりバタつく東条に、頬を緩ませ照れるノエル。


「他にどんなのあんのよ」


「秘密~」


 血が滴る一凛の薔薇の横で、肉を片手に談笑する二人であった。



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