2話
――皇居の中央広場を目指し、比較的綺麗な車道を進んで行く。
「鉄砲っ鉄砲っ」
「バズーカバズーカ。……お」
途中、横転した装甲車が視界に入った。
「よっせぃ」
強引にひっくり返したところに、ノエルが乗り込みエンジンがかかるか確認する。中を漁るも、流石に武器は持ち出されていた。
「ノエルが運転する!」
足を目一杯伸ばし、辛うじてアクセルに届いているという体勢で、彼女はふんすと気合を入れる。
「別にいいけど、それ前見えてんのか?」
「ギリ」
ハンドルに空いた穴から前方確認を行えば、何とかなる……はず。
助手席に座った東条は天井をぶち抜き、上半身を外に出す。
「しゅっぱーつ」
「進行―」
快活な合図と共に、力強い音を立てて車が動き出した。
――時速三十㎞
お世辞にも上手いとは言えない軌道を描きつつも、ノエルの操る車は穏やかに進んで行く。
「まっすぐ走ってくれ。俺酔いやすいんだよ」
「走ってる」
「どこがよ」
蛇行する視界に苦情を漏らす東条は、漆黒を伸ばして道中落ちている武器の類を拾っていく。ルーフに漆黒で固定されているのは、彼が集めた銃火器の数々である。
「集まった?」
「まあまあだな。……ん」
手元の銃の安全バーを外した所で、後ろから何かの気配を感じた。
振り向いた直後、横の林から双頭の黒犬が飛び出す。その数二十以上。吠えながら装甲車に追走してくる。
「お出ましだっ。追いつかれんぞっ」
「おらおらー」
東条は両手にサブマシンガンを持ち、反転して獰猛に笑う。
ノエルはアクセルを踏み込み、初めての快感にハンドルを握りしめた。
死のカーチェイスの始まりだ。
――時速六十㎞
「ヒャハハハハッ!血祭りじゃァッ‼」
「ギャンっ」「キャインっ」
途切れない銃声と共に響く、狂ったような笑い声。四方八方に鉛玉を乱射しまくる東条は、シューティングゲーム感覚で命を刈り取っていく。
しかしやはりしぶとい。ニ、三発ぶち込んだ程度じゃどいつも倒れない。
加えて、
「おいおいおいっ、どんどん集まって来たぞ!」
「あははははっ」
これだけ騒いで他のモンスターが集まらないわけがない。前からも後ろからも、際限なくわらわらと湧いてくる。
そしてそれを跳ね飛ばし、轢き殺し進んで行く装甲車を操る少女の目は、キマってしまっている。
「ハハっ」
東条は全身を外に晒し、装甲車の上に仁王の如く起立した。両手にショットガンを持ち、足裏を漆黒で固定。そこから伸びる触手状の漆黒で残りの武器を拾い上げ、引き金に指を掛ける。
太陽に煌めく無数の銃口が全て、後方のモンスターに向けられた。
「穴だらけになっちまいな」
瞬間、一斉に火を噴き、数百の弾丸が乱れ飛ぶ。肉片が飛び散り、地面が穿たれ、鉄の雨が生きとし生ける者を蹂躙する。
両脇から東条を襲おうとした双頭の犬は、ショットガンで頭蓋ごと吹き飛ばされた。
薬莢が尋常でない速度で足元を跳ね、金属音が鳴り響く。弾切れを起こした傍から投げ捨て、次の銃に取り換える。
手持ちの銃が無くなる頃には、大方が死ぬか逃げるかして、彼の前から姿を消していた。
今尚残っているのは、魔力を纏える強者だけだ。
東条は最後まで残しておいた手榴弾のピンを抜き、構える。
「おぅらッ」
「べボっ――――
剛腕から繰り出された時速二五〇㎞の爆発物が、一体の顔面に直撃し派手に消し飛ばした。
「おぅらッ、おぅらッ、おぅらッ、おぅらッ」
「ノエルもやりたい!」
「後でまた集めてやる、よッ」
爆発音が病みつきになってきたところで、森の中から一際大きな魔力反応が迫っているのを感じ取る。
「ラァッ」
出口を予測しぶん投げるが、出てきた巨影はあろうことか尻尾で優しくキャッチし、そのまま投げ返した。
「――ッ……んの野郎」
「コゲェェェェッ‼」
黒腕で爆風ごと握り潰した東条は、地を駆け追いかけてくる体高四mの鶏を睨みつけた。
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