2巻最終話 3巻は11月から

 

 しかしそんな中、二人の耳が呻き声を捕えた。


「――うぅぁあ」


 段々と大きくなるその声は、徐々に言葉の形を成していく。


「「――ぅるいっ、――さぃっ、ぅるさいっ、うるさいうるさいうるさいうるさいッ!」


「「っ」」


 驚く二人にお構いなく、快人は頭を抑え転がり回る。


「黙れッ‼やめろっ、来るな来るな来るなッ‼」


「何だ?」


「分かんない」


 外部からの攻撃を疑い、警戒を強める二人だが、


「うるさ――……


 次の瞬間、叫びはピタリと止まり、快人がぐったりと動かなくなった。


「……」


「気を付けて」


 快人の様子を見ようとする東条に警告し、ノエルはもしもの為に援護の態勢に入る。



 ゆっくりと仰向けにするとそこには……


「――っ」


 耳、目、鼻、口から血を流す快人の姿があった。


 胸に手を当てるも、鼓動が聞こえない。


 間違いなく、死んでいる。


「……あちゃ~」


「わっ」


 近づいてきたノエルが驚く。



 彼等が知る由もないが、快人は己のcellを限界まで駆使した結果、制御不能に陥り、暴発。


 自分を中心に、数キロ先までの全ての生物の意識を拾ってしまったのだ。


 その途轍もない容量に脳がパンク。

 神経が焼き切れ、遂には死に至った。


「どうするよこれ」


「……埋める?」


「……だな」


 扱いに困り、とりあえず埋めとく。

 直にモンスターかトレントが食べに来るだろう。




 予想外の結末に、口数少なく二人はドームから出る。


 途中、隣を歩くノエルが、チラチラと自分を見ていることに気付いた。


「どした?」


「……怒ってる?」


 上目遣いの彼女が不安気に尋ねる。


「なんでよ?」


「殺しちゃった」


 彼女が怖いのは、殺しの罪悪感などではない。

 相棒に嫌われるかもしれない、という懸念だ。


 しかし東条はそんなノエルを笑い飛ばす。


「別にしょうがねぇだろ。元はと言えば喧嘩売ってきたあいつが悪い。

 それに気づいてるぜ。俺が戦うの嫌そうにしてたから、代わりに戦ってくれたんだろ?」


「……言わぬが花」


「わりいわりい」


 快活に笑う東条に、彼女も安心する。


「死んじまったもんはしょうがねぇ。遅かれ早かれああなってただろうしな。

 パーと気分転換でもして、皇居行こうぜ!」


「おう!」


 互いにサムズアップする彼等に、陰鬱とした空気など微塵もない。

 見る人が見れば顔を顰める光景だ。


「俺も使い過ぎたらあぁなんのかね?」


「まさはエネルギー過多で爆散しそう」


「こっわ!」


「あははっ」




 ノエルは少しだけ思うのだった。


 モンスターである自分はまだしも、他人の死を笑える東条は、


 既にどこか呑まれてしまっているのではないか、と。





 §





 場所は国のトップが集まる臨時会議室。


 この国の情報部は今、一つの動画投稿サイトのせいで蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


「総理、此方が昨夜投稿されたものです。国民やマスコミからの質疑の電話も鳴りやみません。……最早無視はできないかと」


 秘書に渡されたタブレットと報告書に目を通し、我道は複雑な表情を浮かべる。


 この動画の中には、自分達ですら知らない情報が山の様に詰まっている。投稿者自身が情報を売るとも言っている。


 今は謝罪や希望などの感情は抜きにして、彼等に協力を仰ぐべきだと考えた。


「分かった。彼等とコンタクトを取りたい。用意してくれ」


「かしこまりました」

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