第130話

 


 彼が常に余裕を持ち、自信を持ち、二人と対峙できていたのにはある理由がある。


 彼のcellは言うなれば『敵意の知覚』。


 自分に対するあらゆる害意、殺意、敵意に類似する全てを、超感覚で察知することが出来る。


 山手線内にいて絶望的な強敵に遭遇することのなかった運の良い彼は、全ての時間をこの能力と魔法の研究と鍛錬に費やした。


 そうして辿り着いた現段階での境地。


『全自動迎撃モード』


 自分ですら意識できない超速の反応で、感知圏内の攻撃を全て叩き落とすものだ。


 その際迎撃に必要な分の魔力が自動的に削られ続けるため、使いどころを見誤ればぶっ倒れることになる。


 しかしこれまた運の良い事に、彼は魔力量にも恵まれ、且つ最も頑丈な土魔法の適性を手に入れた。


 その絶対とも言える防御力が、彼を彼たらしめていたのだ。



「アァァァアアアアッ‼」


「おー」


 間髪なく降り注ぐ剣つるぎの豪雨を、張り合えるだけの魔力を快人から徴収した四本の土の鞭が、超高速で叩き壊していく。


 しかし、叫びのた打ち回る彼を犯すのは、自分の魔力量を越えて尚強制的に搾り取られ続ける、想像を絶する痛みだ。


 未だ嘗てない恐怖と痛みに支配され、彼の心がバキバキに壊れていった。




 ――驟雨が止み、静寂が戻る頃には、彼はピクピクと痙攣し、白目を剥いたまま動かなくなってしまった


 決着を悟った東条は立ち上がり、その凄惨な跡地に呆れかえる。


「最後のはどっちも凄かったけどよ、生きてんのかあれ?」


「生きてはいる」


 満足気に飛び降りてくるノエルを全身でキャッチした。


「でもあいつ、ノエル達を殺す気でいた。やっぱ殺していいと思う」


 他者を殺すつもりなら、殺される覚悟も持つべきだ精神。

 その考えも分かるが、人間とはそう簡単に割り切れるものではないのだ。


「俺達が殺ると寝覚め悪いじゃん。勝手に死んでもらおうぜ」


「……ん」


 とりあえず矛を収めた彼女に、実験の結果を尋ねる。


「それで、あいつのcell何だったんだ?」


 東条もそれについては気になっていた。

 ビデオに残せば売れると考えたから、二人はわざわざ喧嘩に付き合ってやったのだ。


「まさの予想は?」


「五感の強化とかじゃね?」


「ん。多分その派生。人の意識を異常に気にしてたし、既にだいぶ浸食されてた」


 快人の異常性は、誰もが気付けてしまう程に表に露出していた。


 真に恐ろしいのは、自分にその自覚が無く進行が進んで行くという点である。


「まぁ後のこた知ったこっちゃねぇし、行くか」


「ん。これは高く売れる」


「許可とらなくていいのか?」


「あいつはいい」


「ははっ、違いねぇ」


 ウォーミングアップ後のような感覚で撤収を始める彼等は、洗濯機を回収しスタスタと出口へ向かった。

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