第113話

 


「ここかー」


 女子大に辿り着いた二人は校門に立ち、その地球が喜びそうな風景を眺める。

 グラウンドは軽い森林地帯と化し、校舎からは窓を突き破り植物が飛び出している。


 やはりというべきか、今まで通ってきたどの場所よりも人の痕跡が多い。


 しかし、


「人はいっぱいいたみたいだな」


「ん。望み薄」


 それは生者の跡ではなく、死者の痕。緑の濃さと死の濃さは比例する。


 無駄な捜索は御免被りたい。東条はどうしようかと考え、


「大声出してもだいじょぶかね?」


 呼びかけてみるか?と提案する。


「ノエルもここら辺来たことないから、どんなモンスターいるか知らない」


「そりゃそうだ」


 腕を組み策をを練ろうとするが、もうどうでもよくなってきた。女子大生がいないのなら、自分にとってこの場所は用済みである。


「……行くか」


「ちょいまち、いいのあった」


 そう言うノエルがリュックを漁り、いつの間に入れたのかスピーカーを取り出した。




 ――スピーカーを校門の前にポツンと置き、二人は物陰から様子を見る。


「ブルートゥース」


「良い案だ」


 ノエルがスマホを操作すると、大音量で軽快な音楽が流れだした。同時に二人は複数ある建物に目を凝らす。


 もし生き残っている人間がいるのなら、外の見える位置にいるはず。そこでこの音楽を聞けば、顔を見せないはずがない。


 ……だが、


「……いたか?」


「モンスターなら」


「そりゃ、奴らもいきなり音がなりゃビックリするわな」


 窓に見えるのは、何だ何だと顔を出す人外ばかり。人の姿は一つもない。


「全滅だな」


「ん。ドンマイ」


「残念ではある」


 ポンポンと背中を叩くノエルに恥ずかしい同情をされたまま、東条は中腰になる。


「補助は?」


「マズいと思ったら頼む」


「ん」


 ノエルを背負い立ち上がり、一番の功労者であるスピーカーを見やる。

 その小さいボディは、既に集まったモンスターによって包囲されてしまっていた。


「行くぜ?」


「ん――っわー」


 踏み込み、加速。

 純白の髪が靡き、景色が飛んだ。


「それうちのなん、でッ」


「バギャしゅ――」


 巨大な爬虫類型を跳び蹴り殺し、包囲網を破った東条は、ブツを拾いすかさず跳躍。

 状況に気付いたモンスター達の雄叫びを背に、一直線で東へと走った。


 別に大した理由は無い。次の目的地である帝国大学が東にあるからだ。


「このまま走って行っちまうか?」


「ん。楽ちん」


 どうやら自分のスピードについてこれる奴はいないらしい。


(ある程度走ったらペース落とそ)などと気を緩めた、瞬間、


「まさ!」


「――ッ」


 頭上から途轍もない速度で振り下ろされる電柱を、全力の横っ飛びで躱す。

 魔力を纏った特大の凶器は、地面に衝突しコンクリを盛大に陥没させた。


「……ブルルルル」


 屋上からの奇襲に失敗したそいつは、苛立たし気に再び電柱を担ぐ。


 黒褐色の体毛に、二m後半はある筋骨隆々の恵まれたガタイ。何より目立つのは、天に向けて伸びる牛特有の二本の角。


 赤い瞳がギロリ、と二人を睨んだ。


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