第88話
――「……ん」
いつの間に眠ってしまっていたことに気付き、辺りを見回す。
太陽も早々に姿を隠していた。
意識していないと自動的に身に纏ってしまうようになった漆黒だが、如何せん熱も光も吸収するせいで、真冬に外で寝ていても気温の低下に気付かない。
今では、日向ぼっこと風呂の時以外はずっと真っ黒人間状態だ。
起き上がり、伸びを一つ。
そこで重大な事実に気付く。
「……あ、今日金ローじゃん」
足早にテレビの元へ向かった。
§
何かが地面を這う音が、ゆっくり、ゆっくりと、眠りこける東条に近づく。
「……シュルル」
臭いに釣られて化物の住処に忍び込んだ彼女は、鎌首を擡げ、得物をその瞳に映した。
――「……んぁ?」
「(ンゴっ、ンゴっ――)」
若干寝苦しい感覚に襲われ、寝惚け眼を擦る。
「……」
「(ンゴっ、ンゴっ――)」
……これは、どういう状況だ?
デカくて白い蛇が、自分の下半身を飲み込もうとしている。
こうしている間にも、既に腰まで口の中だ。
……とりあえず、と足を開いた。
「(ンガ……?)」
喉につっかえた白蛇と、腕を組む東条の目が合う。
「……よっ」
「……」
言っても彼の顔は、目が何処にあるのか分からない相貌なのだが、彼女にもこの状況は理解できたらしい。
「(ンゴっ、ンゴっ――)」
ゆっくりと東条を吐き出し始めた。
「……お前、面白いな」
「シュルル」
デュロデュロになった下半身の無事を確かめ、どうしてやるか考える。
ジッと此方を見つめる白蛇には、襲ってくる雰囲気もない。
「うん、殺さないどいてやるよ」
シッシ、と手を振り、そのままソファーに腰を落としテレビをつける。
負けることはないだろうし、いざとなれば殺せばいい。
すぐに何処かに行くと思っていた東条だが、何故か白蛇は動こうとしなかった。
「……お前、変わってんな」
「シュルル」
テレビを食い入るように見つめる白蛇を、見つめる東条。
(何だ?モンスターってのはテレビで大人しくなんのか?)
そうなら和平を結ぶことも夢ではないのでは?などと、思ってもいない事を考えていると、
「マジかよ……」
彼の傍に置いてあったリモコンを、ツンツンと口先で押し始めた。
チャンネルが変わるごとに画面を確認し、また押す。
その行動はまるで、規則性を探っている様にも見える。
「理解してんのか?」
「シュルル」
突如現れた謎蛇の謎行動に興味を引かれた彼は、一晩中彼女の行動を観察していた。
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