第42話

§




 八階、レストラン街にある肉料理専門店。


 奥のソファーに、どっかりと腰掛ける者がいた。


 体長は三mはあろうか、丸太の様に太い腕と脚に、脂肪で丸々とした腹。しかしよく見ると分かる。脂肪の下には、装甲の如く筋肉がこれでもかと張り巡らされている。


 体色はどす黒い緑。醜悪な顔に、半身を出した装い。


 そして、壁に立てかけられた大戦斧。


 彼は肉塊を骨ごと噛み砕きながら、跪く二匹を睥睨する。


 この二匹も普通のゴブリンとは違った。


 一匹は体長二m弱、筋肉は盛り上がり、より人型に近い形をしている。

 もう一匹はそれほど大きくないが、体色が赤みがかっている。


 ゴブリンなのであろう巨漢が、つまらなそうに食べかけの肉を投げ、二匹が恭しくそれを拾いその場を去った。



 そこら中に蠢くゴブリンは、自分達で狩ってきた魔物を食ったり、食べ粕や骨を取り合っている。


 並び立つ部屋にある食料に手を出すのは、たとえ上位種の二匹であろうと許されない。全てが王の食料なのだ。


 それでもゴブリンとは、元来自分のことしか考えない生き物である。食料に手を出す者も当然いる。

 そういった者に待つのは、死、のみ。ゴブリンの社会は、完璧なまでの恐怖政治。上位者に従えぬ者は、容赦なく殺される。



 二匹ともこの程度の食料で足りるはずもなく、普段は下層階で狩りをしていた。


 上層に見張りを出してはいるが、もれなく殺されている。先日登って行った獣のこともある。安全を考慮して、上層に自ら手を出すのは控えていた。


 しかし、と筋肉ゴブリンは思う。


 ここまでくる間も、この階層を巣にすると決め根絶やしにした時も、蔓延っていた種は異常に弱かった。

 加えて、ここに来てから、沢山殺し、沢山強くなった。

 王を殺し、自分が王になることはまだできないが、


 ……そろそろ上層に手を出してもいい頃だろう、と。



 §

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る