第28話
「どう見る?」
東条の姿が見えなくなり、葵獅が口を開く。
「一人が好きなんやろうなぁ。……笑顔でゆうとったけど、用がある時以外は好きにさせろってことやろぅ?」
「……彼を当てにすることはできないのでしょうか?」
「まぁ、利己的ってだけで排他的ちゃうお人やさかい、協力はしてくれはるんちゃいますか?ねぇ凜はん?……凜はん?」
今まで一度も発言しなかった凜に話を振るが、蛇に睨まれた蛙の様に動かない。
その手には汗が滲んでいた。
「どうした凜?具合でも悪いのか?」
「ううん。……ちょっと、怖くなっちゃって」
大きく息を吐く凜に、紗命が興味深い視線を向ける。
「……どないな風に見えはったん?」
凜は自分の能力を隠していた。東条が聞かなかったのも幸いして、最後まで言わずにすんだ。
その理由は、
「……真っ黒だったのよ、顔も見えないくらい」
赤でも青でもない、どす黒いほどの黑。
まるで人間の罪を有色化したかの様な色が、彼の全身を形作っていた。
人+黒で好印象を持つ者はいない。加えて、人は完成されたグループに異物が入るのを嫌う。大人も子供も差異はない。
――誰もが黙る中、見計らったように紗命が口を開いた。
「……彼のこと、うちに任せて貰えへんやろか?」
「危険じゃないか?」
「能力なんて分からへんことだらけ、無駄に考えてもしゃあないです。それに、殿方の扱いには慣れてるし、拘束には水が一番やからなぁ」
正論ではあるが、幼気な少女に任せていいものか、と男二人は思案する。
「そんな難しい顔しいひんで下さい。悪い人には見えへんかったし、いざとなったら皆で袋叩きにすればええんよ」
三人とも、酷いことを快活に言う少女に絆されてしまう。
「……分かった、頼めるか?」
「おおきに」
トコトコと花ちゃんの元へ向かう彼女に念を押す。
「……紗命、何かあればすぐに言ってくれ」
紗命はクルリと振り返って敬礼のポーズをとった。
「がってん承知のすけぇ」
「む」「む」
「……おい」
男二人の体たらくに、呆れるしかない凜であった。
§
それから四人は皆を集め、話し合い、互いの生を喜んだ。
生き残った人数は三十四人。大半が喰われてしまった。
しかし、団結力は以前と比べ物にならない。
見張りの当番表を作り、武器になりそうな物を搔き集め、一人一人に配る。女子供関係なく。
彼らはもう弱者ではない。
外からの救援など期待していない。
自分の命は自分で守るしかない。身をもってそれを知った。
彼等はこの世界で生きる資格を得たのだ。
そんな彼らを引っ張る四人のリーダーが、
今日、生まれた。
――星が瞬く夜空の下、一杯だけ酌み交わす二人を、月は静かに照らしていた。
「どうだ、仲良くやれそうか?」
林を見ながら葵獅が笑う。
「……どうでしょう、彼からは何か距離感の様なものを感じます。……正直、苦手なタイプです」
「ハハハっ、お前もそんなことを言うのか。てっきり誰にでも尻尾を振るのかと思ってたぞ」
「……酷い言い草ですね」
半眼で睨む佐藤を無視して、葵獅は酒を煽る。
「まぁ、一人でいれる力があるなら、他は余計なものとして割り切るのも道理だ。否定はできん」
「強いんでしょうね、身体も……心も、」
「こんな世界だ、普通は出来んがな」
佐藤は自分の中に巣食う命題を、カップに揺れる月へ投影する。
「……考えてたんですが、私も、ここにいる仲間の為なら、他の人達を犠牲にするのを厭わないと思います。命に価値を付けるという点では、何も変わらないのかもしれません」
葵獅はちらりと佐藤の横顔を見るが、そこに悲観的な影はない。ある種の覚悟に似た男らしさが垣間見えた。
「ふっ、……世知辛い世になったな」
「全くです」
汗をかいたカップを、互いに軽く合わせた。
――己がために他を殺す者と、
――他がために己を殺す者達、
――ただ偶然の邂逅に、彼等は何を見る。
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