第27話
――「とまぁ、こんな感じですね」
「……いや、有難う。……しかし、大変だったな……、」
「ふふっ、それでズボンがのうなったんやなぁ、ふふっ」
「あざっす、……そんなに笑わんといて下さいよ」
「かんにんなぁ、ふふっ」
「……ゴブリンに狼か、厄介そうだな」
「うちはその漆黒とやらが見てみたいなぁ」
「分かりました」
突然現れた球体に、凜がギョッとする。
「……確かに魔法には見えへんなぁ」
「……話を聞く限り、私の能力と似てますね」
「え?」
まさか、特別ではなかったのか?東条は佐藤の言葉に驚く。
「いや、能力の効果自体は全く違うんですが、何かこう、概念的なものが」
「詳しく聞かせて貰っていいですか?」
――「……強いですね。それに魔法も使えるのか、……羨ましい」
一通り自分達の境遇を話し終わり、次いで彼は屋上の一角に居を構えていいか聞く。
正直東条自身は、食料も自らで調達する気の上、来たくて来たわけではない。
何処に誰が住もうが関係ないと感じているのだが、もめるのも嫌なので体裁的に振る舞っていた。
しかしそんな彼に、
「あの、そのことなんですが、此方で寝床もプライベートも御用意するので、木から降りて頂くことはできないでしょうか?」
佐藤が低姿勢に頼み込んだ。
「……なぜです?」
「ここに来たということは、ここにいた人達も食べてるんですよね」
「確かに、新しい服が沢山張り付いてたんで、そうなりますね」
「あの木々は仲間達の墓でもあるんです。せめて私達の元にあるまでは、大事に扱ってあげたいんです」
「……あぁ、……なるほど」
東条の目が力なく細まり、本心から謳っているのだろう佐藤を見据える。
「今まで大変な思いを共に過ごしてきた、大事な住居だとは思いますが、どうか「断ります」……」
鋭い一言が空気を凍らす。四人の視線が東条に向いた。
「……佐藤さんの言い分も分かります。
けど、俺があの木を選んだのは、姿を隠せて、且つ快適に過ごせるからです。
別にそんな思い入れはありませんし、あの木を越える良物件があるならすぐにでも移ります。
ですが今や四方を木々に囲まれて、防御もプライベートもいっそう固くなりました。そちらにあれ以上を用意することはできないと思います。
勝手で申し訳ないですが、俺は情より自分の命を取ります。……すみません」
東条は申し訳なさそうに頭を下げた。
「い、いえ、勝手を言ったのは私です。こちらこそすみませんでした」
一瞬剣呑な雰囲気を見せたかに思えた東条だが、自分の意見をしっかり持っているだけか、と三人は安心する。
(……俺ってこんな頑固だったか?)
対する東条も机を見ながら一息つく。
何はともあれ穏便に話も終わり、今後手伝って欲しい時は呼んでくれと笑顔で伝え、東条はその場を去った。
――帰り道、自分を見る視線に気づかな振りをしながら、東条は溜息を零す。
(…………めんどくせぇ)
ドストライクな美女も、善を押し付けてくる優男も、それに合わせる自分も、全てが面倒だ。
彼は再び一人の時間を求め、林の中へ入っていった。
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