第11話

 


 東条は慎重に下の枝に降りながら、手を伸ばし、ギリギリ射程に収める。


 この際だからと、モンスターを使って自分の能力の実験をすることにした。


 頭上に漆黒を飛ばすと、怒り狂っている鼻折れは大した確認もせずに噛みつく。


 ......彼から一定以上離れられない漆黒は、狼をぶら下げた状態で浮遊した。


(ん?……)


 噛みつかれた瞬間、自分の、いや漆黒の中に、何かが『溜まった』のが分かった。


 正体不明の感触は、今もなお継続して続いている。


 能力の手掛かりに思考を傾けようとした、直後


「がッ!?―」


 背後からの衝撃と共に空中に投げ出された。


 「―ッグっ‼ゲホッげほっ――ッ」


 地面に叩きつけられそうになった彼は咄嗟にフライパンを手放し、タイミングよく前に転がり落下の衝撃を流す。


 肺を打たれた反動でまともに息が吸えず咳込むが、相手が悠長に待ってくれるはずもない。


「「ガルァッ」」


 待機していた二匹が同時に走り出す。

 牙が狙うのは隙だらけの敵、落とした武器を取ろうとしているようだが、こちらの牙が届く方が早い。




 東条は今まで動かなかった二匹が走り出すのを見て、落とした盾を拾おうとするが、遠い。


 早すぎる展開に舌打ちをし、拾うのを諦め、左腕を後ろにやり左右同時に飛びかかってくる狼の右に狙いを定める。


「ジィッ‼」


 下顎を刃でぶち抜き、同時に、犠牲に差し出した左腕に逆側の狼が牙を突き立てた。


「ッテぇなクソがァッ‼」


 東条は串刺しになった狼が足掻くのを見て、牙が突き立ったままの左腕を強引に振り両手で牛刀を逆手に持つ。


 痛みを気合でねじ伏せ、万力をもって引き下ろした。


「ッらァッ‼」


 腹の下まで裂けた一匹を後に、左腕で暴れる狼の目を突き刺す。


狼は「ギャウンッ」と悲鳴を上げ後方に飛び、彼を睨みつけた。


「はぁっはあっはあっはあっ――」


 左腕の感覚を確かめながら、残る三匹を視界に入れる。


 正直腕は痛みで力が入らない。ちらりと背後のトイレを確認するが、遠すぎる。


 逃げの選択肢は、無い。


 盾も木の近くだ。


 彼の額を汗が伝った。

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