Real~Beginning of the unreal〜
美味いもん食いてぇ
第一巻 一章 ようこそ現実へ
第1話 先ずこのページを開いてくれたあなたに感謝する。ありがとう‼そして突き刺されっ、俺の文章‼
鼻孔を撫でるのは雨に濡れた土の瑞々しさ。
耳を通り抜けるのは吹き抜ける風の冷たさ。
舌に薫るのは深緑の若葉が紡ぐ優しさ。
肌を刺激するのは穏やかな朝の静けさ。
目に映るのは、眼下に満ちる破壊の痕跡と、建物から不規則に顔を出す木々の歪さ。
ここは東京都にある池袋駅周辺、つい先日までは人で溢れかえり、喧騒に満ちていた場所である。
§
「は~、」
夜空に昇る白い息を見届けてから、周りを見渡し、
「……は~」
もう一度吐く。本人とて、そこに落胆が混じっていることに気付いている。
彼の名前は
今日は、得も言われぬ敗北感を白く染める作業が捗る。なぜかって、本日の日付は十二月二十四日、クリスマスイヴだ。
目に入るのは、カップルカップルカップル鳩たまにホームレス。池袋駅東口を出た前には、豪華とは言い難いがしょぼくはないイルミネーションが飾られている。
この中では一番力を入れられたのであろうクリスマスツリーを見上げる人達を横目に、彼は駅に向かって歩いてゆく。
赤信号を前に、ポケットに手を突っ込み、ジャケットに口元までうずめて待っていると、不意に後方から呟く声が聞こえた。
「……なんだあれ?」
誰が発したのかも分からないその声は、喧騒の中で不思議とよく通った。
彼は首を回し、
――原因の物を見つけるのに時間はかからなかった。
周りの人間の全てが、『それ』を注視していたから。
『それ』はクリスマスツリーのちょうど星の部分に現れていた。
紫がかったドブ色の球体で、絶えず波打っている。
数秒ほど見ていると、周りが段々と騒さわがしくなりシャッターを切る音も目立ってきた。
(……キモイな)
本来無かった物が無理矢理そこに収まろうとしてるような、言い知れない違和感と悍ましさを感じる。
さっさと立ち去ろうと、東条が青になった信号を渡るために足を踏み出
そうとした時
どさっ
何かが落ちた。
と同時に一人の女性がフラッシュをたく。
直後、女性の首から鮮血が舞い、辺りに飛び散った。
……ほんの一瞬だけ、時が白くなる。
「「「きゃあああああああッッッ‼」」」「どけっ‼」 「――っ‼」
そこからの行動に大した違いはなかった。一人の者は我先に、二人以上の者達は互いに焦りながら、もしくは弱い者を守りながら、たった今、人ごみの中に突如として出来た最も危険な場所から離れようとする。
しかし、
彼等は見ていなかった。
背を向けていた。
もしまだ前を向いていたら、もっと必死に逃げただろうに。
……それでも結果は変わらなかっただろうけど。
「あ?」
突然の背後からの喧騒に、東条は再度振り向く。
落下音がしたと思ったら、数秒後悲鳴と共に大量の人間が押し寄せてきた。
意味が分からない。いや、意味は何となく分かる、おそらく中心地で何か起きたのだろう。普通は起こってはいけない事が。
そんなことを考え、自分もその場を離れよと脚に力を込めた瞬間に、それは起こった。
ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと
ドブ紫色の玉が爆発的に膨張し、そして濁流の如く溢れ出した。
溢れ出したそれらは人の形をしていなかった。
人の形をしていないそれらは大小様々色も形もばらばらだった。
――そして、むせ返るほどの血の臭いをさせていた。
【後書き】
近況ノートに主人公のイラストございますのでどうぞ。ただ2巻以降の内容が含まれてますので、完全にネタバレを遮断したいという方は、見るのを避けた方がよろしいかもしれません。
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