「おっさん、神に祈る」
建物の中は
先ほどまでは文庫本などを読んでいたが、文章の上を視線が上滑りしていくようで、全く内容が頭に入ってこなかったので、あきらめてポケットにしまった。
することがないので、時計を見つめる。規則的な音を立てながら一秒に一めもり動く秒針を
私の人生は正しかったのか?
正しさは自分で決めるなんて息巻いても、こんな状況に追い込まれたらすぐに不安になってしまう。
結局自分をだましながら生きてきただけじゃないか?
自分の都合のいい解釈だけをしてきただけなんじゃないか?
いや大丈夫。自分はまだマシなはず。
同僚のあいつなんて暴飲暴食繰り返してひどい体形だ。
あんな奴でも生きてるんだから。
……ほら見ろ。また都合よく考えてる。
その怠惰と惰性のツケは確実に溜まっているんだ。
どうしよう。知らない間に手の付けられない状態になっていたら。
どうしよう。死の宣告を受けたら。
鼓動が早くなる。息が上がる。
待っているのが苦しい。
いっそ早くとどめを刺してくれ。
いやちょっと待て、今のなし。ほんとは刺されたくない。
早く結果が知りたい。いや知りたくない。
神様。神様。かみさま。
ごめんなさい。ごめんなさい。
今まで馬鹿にしてごめんなさい。無視してごめんなさい。
これからはあなたの言う通りにするから。もう二度と逆らわないから。
野菜もちゃんと食べるから。運動だって毎日するから。
どうか私を救ってください。どうか私を導いてください。
不安が最高潮に達したとき、自分の名前が呼ばれた。審判の時がきた。
ああ…神様。
「ちょっと肝臓の数値高いけど、まあ大丈夫でしょ。一応飲み過ぎに気を付けてね~」
神様は白衣を着た小太りの男だった。
診断結果というご神託をうけ、私は心が洗われるような気持ちになった。
ああ、神様、ありがとう。
これで今日はおいしい酒が飲めそうだ。
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