欲しい言葉があるなら、私は――
前に短編で書いたお話を、こちらへと移行しました。
すでに読まれた方もいらっしゃると思いますが、生温かい目でみてやってください(≧∀≦)
――――――――――
■短編名
そんな昔の一部始終
■キャッチコピー
今こそ、エアーではないダンクスマッシュに、酔いしれるがいい
■あらすじ
とあるパパ上様のお仕事お休みの日。
ソファーで寝そべるパパ上様に息子が聞いてきた質問と要望に、パパ上様の黒歴史が、また1ページ、幕を開ける――
パパ上様と、その妻である彼女の若かりし頃。
珍しくしっかりデートな旅行中に起きた、ほぼ実話の、ほんの少し哀愁が漂うお話。
お時間のあるときに。
暇なときに。
疲れて休憩中のブレイクな時に。
ちょっとだけ、くすりと笑いたいときにでも。
タグもセルフレイティングもつけず、ひっそりとサイレント気味にこっそりと公開するこのお話。
見つけて読まれた方が、ラッキーだと思えて面白い気分になってもらったならなお幸い。
是非、怒らずに、見てやって、くーださぁい、なっ☆
――――――――――
「ねぇねぇパパうえー」
今日も外へ行くのは自粛中の、自粛期間中にぽよんとまん丸に太った我が息子が、父親である私を退屈そうに呼ぶ。
間もなく小学六年生となる息子は、話し出すととにかく止まらない。個人的には、あまりにも話し好きなので、「女子かっ!」と、話し出すとデザートを前にして話が止まらない女子を彷彿とさせると思っている。
「どうした息子よ」
そんな、「パパ上様と呼べ」と父親に言われて今まで呼んでいたが、そろそろ恥ずかしくなってきて言いづらそうにしだした息子を、会社の休みがあまり取れず、休み中も自粛してリビングのソファーから動かないトドと化した私ことパパ上は、花粉症にもやられて今日もぐずぐずとぶひーと豚のように鼻を鳴らせて息子の名を呼ぶ。
……誰が豚だと? 自粛して動かなくなったから、歳相応にいい感じにお腹がぽこんっと出てきただけだ。
だが、私を豚と一緒にしないでもらおうか。
豚は、太っているわけではない。あれは良質な筋肉なのだ。あの綺麗好きな動物は、一応野生の猪と同じ種なのだから。
つまりは。
「いやぁ、しょうもないことなんだけどさー」
はっと、なぜか豚について考えだした私が、息子の声で我にかえる。
「僕さー、テニスをやってみたいんだよねー」
「なぜに、急に……」
「友達がやってるらしくて、興味があるんだけど、簡単にできるもの?」
息子は、突発的にやりたい症候群を発動させることがある。
以前はバスケットボールだったわけだが、近場で珍しく見つけた野外のバスケットコートで、パパ上の強烈な紫さん的ブロックにシュートを(大人気なく)阻まれ続けたことにも諦めず、私を躱すためにドリブルやフェイントを学んで独自に上手くなっていったのも、自粛期間となった今では懐かしい。
……ちなみに。
「ぶひゅー、ぶひゅー」
「……大丈夫? パパうえ」
私の特殊能力である『
そんなことを、今度はテニスでもやろうとしているのかと思うと、あの時以上に体力がなくなった今の私が耐えられるのかと不安になる。
だが、運動不足な今だからこそ、息子と(スキンシップを兼ねて)共に運動するいいキッカケなのではないかとも思う。
「まあ、本格的にやるのではないのなら、やれなくはないな。ちょっと練習すれば、ラケットにボールを当ててラリーをするくらいは出来ると思うぞ」
「パパうえ、やったことあるんだ」
「あー、ちょろっと、な」
「ふむふむ。で、ね」
息子はなんだかんだで、運動神経はある程度良く、反射神経もそこそこあって、器用である。
それになにより。まだ、若い。
やればやるだけ、すぐに吸収できる羨ましい若さだ。
『
「ダンクスマッシュ」
「っ!?」
「昔、お母さんの気を引くために放ったあの技を、僕もやってみたいから、テニスを教えて下さい」
私は、妻と付き合う前、彼女の前で盛大に『エアーダンクスマッシュ』なる技を撃って、足の指を折った黒歴史がある。
だが、まさか、息子が……あの一子相伝とも言える技を覚えたいと自ら言うとは……そうか、足の指の骨、折りた――
「パパうえみたいには指折らないから、大丈夫」
「お前……」
「あら。テニスなら、エアーダンクスマッシュだけがお父さんの黒歴史じゃないのよ」
「っ!?」
そこに、食器を洗い終わった、学生時代から付き合って今は二児の母となった私の妻が参戦する。隣には、「にゃーにゃー」と、妻の手伝いをして満足気な娘の姿もあって、リビングで家族全員が揃って団欒の時間となった。
「なになに? ダンクスマッシュよりもすごいのそれ!?」
「あー、うーん? あれは最高の笑いばな――こほん。ママを落とすための最高の決まり文句だったから、あれに勝るものはないんだけどね――」
――おい。
まさか、あれを……私のもう一つの、黒歴史を、話すつもりかっ!?
私は、わくわくと表現することが正しい我が息子と娘、そして、にやりと笑う妻に、諦めることしか、出来なかった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
学生時代に出会った彼女と仲良くなってしばらく。
学校を卒業し、二人で一泊二日の旅行に行った時のこと。
「あ。あそこにテニスコートがある」
それが、始まり。
初めての二人きりの旅行に浮かれた私は、彼女と散歩中にテニスコートを見つけた。
「あー、やったことないんだけど、簡単にできるもん?」
「え。あんなに盛大にエアーダンクスマッシュしてたのに?」
「ほっとけ!」
付き合うきっかけとなったエアーダンクスマッシュのクダリも、今はもう懐かしい黒歴史だ。
そんな私達が、テニスをしてみようとなるのはまた必然で。
彼女が昔、部活でテニスをやっていたから、軽くレクチャーを受け、私も元野球部だからか、ボールを捉えるコツはすぐに掴めたのでいざ実践。
「ねーねー。私が勝ったら、なんかいいこと言ってねー」
「……」
そんな経験者の余裕を、崩してやろうではないか。
なんだったら、私が勝ったらなにをさせてやろうか、でゅふふ、なんて思いながら、私は、無言で、すっと、ボールを
しゅぱんっと、私のラケットがボールを捉える。
初めてにしては驚きの、しっかりと芯を捉えたその一発は、私の野球部時代に培った腕の振りが存分に力を伝えたようで、目に辛うじて映るほどの(言いすぎ)速さで相手フィールドへと一直線に突き進む。
強烈なサーブに驚き、とっさに彼女は辛うじてと言うほどの動きでボールを捉え、跳ね上げてしまった。
なんという
「これが、本当の――」
空高く上がったそれに、
私の体は、瞬時に動いた。
『
できる。やれるはずだと、一気に体は加速し、落下予測地点へと体を滑らせる。
ダッシュの勢いを殺し、ぐっと一瞬膝が落ち込むと、そこからカタパルトから射出された戦闘機のように、弾き出された力によって体が宙に浮く。
ぐいっと背中を反らし、ボールに照準を合わせてラケットを、振りかぶる。
ボールに向かって、振り下ろされるラケット。
傍から見れば、それはまさに――
――ダンクスマッシュ、だっ!
私の口から、私の今の動きを見れば分かるからこそその言葉は出ず、ただ想いが乗せられたラケットが、ボールに向かって――
――ぐきり。
着地。
「ばっかだなお前。いちいちそんなことやらなくても――」
すくり、と立ち上がり、俺は彼女に想いを伝える。
「俺は、お前に会うために生まれてきたんだから、いつだって欲しい言葉があるなら、囁いてやるぜ?」
「……足ひょっこひょことしながら言っても、かっこよくみえないからね?」
「ふっ……」
何故気づいた。
私が、着地の際に、
いやいや。何を期待しているのかと。まぢで無理だから。
初体験な素人が。エアーダンクスマッシュで足の指を折ったこの私が。
対空でラケットで撃てたとしても、そんな理想な高さまで跳躍できるわけもなければ、タイミングもわからないんだからラケットがボール撃つ前に着地するって普通。
なんかいい台詞が浮かんだからこそ決めてみたのに、最後は台無しにするのが、私クオリティ。
転々と。
テニスボールが私の背後で寂しく転がり、私と彼女の勝負は、幕を閉じた。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
数日後。
「で?」
私は、息子と久し振りに親子団欒の機会を得て、テニスを楽しんだ。
「いやぁ、その、な……」
そして私は、いま。
妻に、あのときと同じように呆れた顔をされて説教されていた。
「四つん這いになって片脚押さえて、『持って行かれたっ!』って叫ぶあんたはカッコ良かったわよ。どこの錬金術師かと思ったわ」
「……」
「で? 明日から、ふっつうにその足で会社行けるの?」
……すいません。
やはり、若かりし頃のように、私の体は私の理想通りには、ついていきませんでした。
皆さんも、運動不足な時に、急激な運動するときは、気をつけましょうね。
意外と。
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