パパ上、また、やらかす
「いんいちーがいち〜♪ いんにーがにー♪」
その九九の歌を聞くのは二度目だ。
いや、正しくは、二度なんてもんじゃなく、数え切れないくらい聞いているわけだが。
息子のときにも九九を覚えるために何度も練習している様を聞き、今は娘もまた、九九を覚えるために必死に歌いながら覚えようとしている。
娘も息子も、楽しそう――には見えないな。
娘なんぞ、覚えられなくて軽く涙目だ。
息子も当時は泣いていたのを覚えている。
「学校の授業で覚えるのも限界あるから反復させないとね」
覚えられない娘を鬼コーチする嫁が、飲み物を注ぐついでにキッチンでその光景を見ていた私に声をかけてきた。
「ふむ。九九かぁ。覚えるの大変だった記憶はあるな」
「怒られすぎて苦手意識つかなきゃいいけど。でも、それよりも、この子の場合は問題があるのよ」
「? ん? 問題?」
嫁が「ほら、もうすぐよ、聞きなさい」と私に娘の九九を聞かせようとする。
「さんいちが〜さん〜♪」
娘は、三の段にはいったようだ。
「さんに〜がろく〜♪ さざんがあいず〜♪」
「Σ( ̄口 ̄)」
待て。
誰だ、そんなマニアックな作品を娘に教えたのはっ!
「ね?」
「ね? じゃなく。いや、誰だよ。
「さあ? 誰でしょうねー。子供達は絶対知らないはずよねー……?」
明らかに私を疑う嫁。
いや、確実に私ではない。いや、この家族の中で私以外にあの漫画を詳しく知りはしないだろうが、娘には教えた記憶はない。
「さんご〜はぁしめつ〜♪」
息子が、娘の歌に合わせて、くすっと笑いながらぼそりと呟いた。
「こいつだ!」
そうだ。
娘には教えてはいない。
息子が九九を覚えているときには言った!
つーか、息子は息子で、酷いな今の。保護団体に怒られるぞ。
「こいつだ! じゃなくて、結局はあんたでしょ!」
息子の頭を鷲掴みしている私を、どうやっても犯人に仕立て上げたいらしい嫁。
いや、もし私が犯人なら、「ろっく」もロックマンとか覚えさせるし、「ごご」だって午後の紅茶とかで覚えさせちゃうっての。
息子だからこれで済んだのだろう。
……自慢じゃないが。
「さんきゅ〜はおがた〜♪」
「「……え」」
いや、これは私じゃない。
そんな、パンサーの尾形みたいな覚え方はさせた記憶もなければ、私はそこまで興味あるわけではない。
「お笑い好きなのは、お前だよな?」
つまり、さんきゅーに関しては、嫁だ。
「……え〜……」
私だけではない。
「にゃ〜……うるさいにゃー……おぼえられないにゃ〜」
「「「すいません」」」
間違えて覚えている娘含めて。
家族全員、やらかしました。
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