次の町へ、傭兵たちと

「おお、綺麗になったじゃねぇか!!」


 掃除が終わり、ドノバンさんが両手を広げてゲラゲラ笑った。

 俺や傭兵団の皆さんは汗だくだ。ヒジリは汗一つかかず涼しい顔をしていた……細い身体してるくせに、俺や傭兵団のみなさんより体力あるな。

 ドノバンさんは二カッと笑いながら言う。


「兄ちゃんと嬢ちゃんの報酬は冒険者ギルドにもらってくれ。傭兵団のあんたらはこれだ。それと、一番湯だったな。すぐに湯を沸かすから待っててくれ」

「「「「「おっしゃぁぁぁーーーっ!!」」」」」

「うおっ、びっくりした」


 傭兵団の皆さんはデカい声で叫んだ。

 すると、バニッシュさんが俺の肩をポンと叩く。


「せっかくだ。セイヤ、おめーらも入っていきな」

「え、いいんですか?」

「おう。労働のあとは風呂、んで酒ってのがセオリーだ覚えときな」

「はい!!」


 バニッシュさんは頭を抱えているヴェンデッタに言う。


「ヴェン、貯金だけどよ……その、七割じゃなくて四割でいいか?」

「はぁ……仕方ないなぁ。まぁ、あたしもお風呂入ってエール飲みたいし……」

「よっしゃ!! おいラーズ、湯を張る間に酒樽買ってこい!!」

「はい。ヴェン、付き合ってくれ」

「うん。じゃ、行ってくる」


 すると、ヒジリが俺の裾をクイクイ引っ張る。


「主。傭兵団の皆さんと円滑な関係をお望みでしたら、こちらからも何か提供したほうがいいのでは?」

「あ、そうか……って、お前がそんなこと言うなんて」

「いえ。人との縁は強い力ですから」

「そっか。じゃあ……俺たちも酒樽買うか?」

「いい案です。では、私が買いに行きます」

「おお。あ、ヴェンデッタたちと一緒に行くといいな。酒樽持てるか?」

「問題ありません。では」


 ヒジリはラーズとヴェンデッタの元へ行き、何やら話をした。すると、ヴェンデッタがにっこり頷き、ヒジリの手を取ってブンブン振る。そして一緒に歩きだした。

 すると、俺の隣にバニッシュさんが来た。


「おーおー、ヴェンの奴、ダチができたみてーだな」

「ダチ……ああ、友達か」

「おう。それで、あの嬢ちゃんは何しに行ったんだ?」

「はい。お酒を買いに。お風呂のお礼に皆さんと一緒にと思いまして」

「なにぃぃっ!? い、いいのか!?」

「もちろん」


 俺は、大喜びするバニッシュさんに背中をぶっ叩かれた。

 ああ、これが男同士……なんとも素晴らしい。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 酒樽を手押し車で汗だくになって運んできたヴェンデッタとラーズ、そして汗一つかかず酒樽を四つ重ねて持ってきたヒジリが帰ってきた。

 ヴェンデッタとラーズはヒジリをバケモノを見るみたいな目で見ていたが、ヒジリは全く気にしていない。

 ドノバンさんの好意で酒樽を冷やしてもらい、俺たちは風呂に入った。

 脱衣所で、俺は興奮していた。


「くぅぅ~~~……男同士の風呂!! 風呂!!」

「……何が嬉しいか知らんが、とにかく入るぞ」


 バニッシュさんが気味悪い物を見るような眼でみていた。

 裸になって浴場へ行くと、バニッシュさんが傭兵たちに言う。


「おめーら!! 汚ねぇ身体を徹底的に洗ってから湯船に浸かれよ!! 自分たちで掃除して自分たちで汚しちまったら意味がねぇ!!」

「「「「「おうっ!!」」」」」

「団長、背中流します」

「おう、頼むぜラーズ」


 洗い場に向かい、木椅子に座る。

 ラーズがバニッシュさんの背中を洗いだした。

 俺はバニッシュさんの隣に座り、自分の身体を洗う。

 せっかくなので、親交を深めよう。


「バニッシュさん、すごい身体ですね」

「はは、ありがとよ。だがまぁ、オレも歳でな……安定した収入ってヤツに憧れちまうくらい老いた。傭兵家業は楽しいけどよ、そろそろ落ち着こうと思ってなぁ」

「それで、炭鉱を?」

「ああ。バルバトス帝国には手つかずの山がいくらでもある。炭鉱の会社作って、こいつらと汗流しながら暮らすのも悪くねぇ……血の気の多い連中だが、全員オレの息子みてえなもんだからな」

「団長、オレ……団長に付いていくから」

「はは、ありがとよ、ラーズ」


 ラーズはバニッシュさんの背中をゴシゴシ洗いながら言う。

 そして、俺を見た。


「お前、何が目的か知らないけど、あまり傭兵に馴れ馴れしくするなよ。冒険者と傭兵は仲が良くないんだ。団長みたいな人はめったにいないんだからな」

「……別に、俺は」

「口答えするな。どんな目的があろうと───「よせ、ラーズ」……はい」


 バニッシュさんが苦笑し、俺に言う。


「悪いな。冒険者と傭兵は商売敵みたいなもんでな……」

「いえ、そんな。それに……俺も炭鉱夫を目指してまして」

「お? そうなのか? 若いのに珍しいな」

「はい!! 俺、男の職場に憧れてるんです!! だから、男だらけの傭兵団ってすっごくかっこいいですし、憧れです!!」

「……………………そ、そうか」

「……………………団長、やっぱりこいつヤバいと思う」


 バニッシュさんとラーズはなぜかドン引きだった。

 俺、変なこと言ったかな……よくわかんないや。


「と、ところで……お前と嬢ちゃんはこれからどうする?」

「ここでの用事は済んだので、北上して次の町を目指します。冒険者ギルドで依頼を受けてお金を貯めて、自分の鉱山を手に入れるのが夢です!」

「ほぉ、オレらと同じか。でも、山買うとなると大金が必要だぜ? 設備投資もあるし、炭鉱夫だって必要だ」

「そっか……あの、お金ってどのくらい必要ですかね?」

「場所にもよるが……そうだな。白金貨四十枚もありゃなんとかなるだろ」

「え」


 えっと、アスタルテから貰った白金貨が五十枚……か、買えるわ。

 いや待て。この金は借り物だ。もらったお金で夢を実現することは、本当に正しいのか。

 なんの経験もなしに山を買って、設備入れて……うん、経験が足りない。

 鉱山や炭鉱夫について、もっと勉強しないと。それと、お金も稼がないと。


「ああ、オレらも北上して次の町へ行くんだが……おめぇさえよければ一緒にどうだ?」

「いいんですか!?」

「団長!? 冒険者と一緒なんて……」

「ラーズ。いつも言ってんだろ? 冒険者だからって差別すんじゃねぇ」

「う……すみません」

「で、どうする?」

「お願いします!!」

「よし決まり。その代わり、冒険者なら自分の身は自分で守れよ? 道中現れる魔獣から守ってやるつもりはねぇからな」

「はい!!」


 こうして、俺はバニッシュさんの傭兵団に同行を許された。

 こんなチャンスめったにない。いろいろ炭鉱夫の話を聞かせてもらおう!!

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