第714話 流出

「見つかったわよ!」 


 画面ではいつもクールに決めているはずの安城秀美少佐が慌てたような表情で大写しになっていた。


「何が?」 


 そんな安城の声に嵯峨はいつものとぼけた調子で返す。相手がいつもの嵯峨だと分かった安城はただ苦笑いを浮かべるとモニターに顔を向き直った。


「例の秘密兵器のデータ流出の件。やはり『ギルド』が絡んでるわね……さっきようやく左翼セクトのメンバーを落としたのよ……」 


「そいつはご苦労さんだねえ……でもそれじゃあ吉田とは無関係……」


 嵯峨の口調は相変わらずのんびりと他人事のように続く。大きく自分を落ち着かせるためのため息をつくと安城は言葉をつないだ。


「余計ややこしくなっただけよ。しかも直接手渡しでデータを受け取ったって……しかもその相手が北川公平……先日嵯峨さんのところの神前君がかち合った相手よ……」 


「そいつはまた大物が……でもその調子だと北川のアジトでも掴んでるんじゃ無いの?」 


 それとなくいやらしい笑顔を浮かべて画面を見つめる兄に弟ながら高梨はただ呆れるほか無かった。


「それが掴んでるから困るのよ……しかも明らかに捕まえてくれって言うくらいに丁寧に証拠を残しているんだもの」 


「ああ、それじゃあ渉の奴をつけてきた公安の皆さんは無駄手間をかけちゃうことになるねえ……」 


 嵯峨の言葉の調子には少しとして悪びれるようなところはない。ここまであからさまに他人事のふりをされると安城も怒るに怒れなかった。


「山脈西部宇宙港から第14宇宙ターミナルステーション行きのシャトルの貨物室ですって……ばれないとでも思っているのかしら?」 


「だからブラフでしょ?今頃本人はそれとは別の安全極まりない方法で遼州星系から出ようとしている……そう考えるのが普通じゃないの?」 


 いちいち尤もなだけに安城はただ苦笑いを浮かべるだけだった。


「とりあえず北川を取り逃がしたら連絡するわ」 


 それだけ言うと通信は突然のように切れた。


「あのさあ……渉……俺、また嫌われたかな?」 


「さあ……どうでしょう?」 


 いかにも情けない表情を浮かべる兄。高梨はただその演技に過ぎる表情に呆れながらこの小汚い部屋を後にする踏ん切りを付けていた。

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