第344話 銃器

 アイシャがさらに話を続けようとするのを無視してかなめは更衣室のある二階へ上がる階段を上ろうとする。だが、降りてきた技術部小火器管理責任者のキム・ジュンヒ少尉の姿を見て足を止めた。


「アタシのチャカ。上がったか?」 


「ああ、それの件を含めてお話があったんですが……そう言えば島田は?」 


 キムがそう言うと遅れてきたカウラがハンガーの入り口を指差した。そこにはなぜかランに頭を下げている島田とサラの姿があった。


「なんだ?アイツに小火器関連の担当のお前が話があると言ったら……決まってるか」 


 かなめの言葉に頷くキムはそのまま階段を降りてランのところへと走った。その姿と誠達を見つけてランが一階の奥にある技術部の部屋を指差す。


「銀の弾丸でも支給してくれるのかね」 


 そんな茶化すようなかなめの言葉だったが誠は冗談には受け取れなかった。


 昨日、誠が手をかけた法術暴走で再生能力が制御できなくなり、化け物と化した法術師。その姿を見れば一般の武器で対応することが出来ないことは容易に想像ができた。


 キムは二言三言ランから話を聞くと誠達のところに走ってくる。


「とりあえず俺の部屋に集合だそうです」 


 そう言ってキムは再び技術部の班ごとの部屋が並ぶ廊下へ駆け込む。それを見ながらカウラは目で誠についてくるように合図するとそのままキムの消えた火器管理室に足を向けた。


 キムについて火器管理室に入った誠に、職人じみた顔の初めて見る下士官達が目に入った。


「ちょっと待っててくださいよ、西園寺さん」 


 そう言って誠には何に使うのか分からない機械の間をすり抜けてキムは姿を消す。


「リロードしてるのか?まあそうだろうな。神前のルガーだって弾はファクトリーロードじゃないって話しだし」 


 かなめはそう言うと誠の顔を見た。厚い眼鏡の小柄な女性下士官がそれぞれの使用している銃を並べる。


「えーと、じゃあクバルカ中佐」 


 そう言って中型拳銃を取り出す眼鏡の女性。ランが歩み出るとそこには銃と予備マガジンが二本。それに見慣れないハングルの書かれた箱に入れられた弾丸が置かれていた。


「こいつか……。マジで使えるのか?」 


 ぎりぎりカウンターに届く背のランが銃を手に取ると、慣れた手つきでスライドを引いて愛銃マカロフにマガジンを叩き込んでスライドを閉鎖する。


「一応、アメリカ陸軍の法術研究の資料から引いて作成したものですから大丈夫だと思いますよ」 


 おどおどと眼鏡の下士官が答える。


「マジで銀の弾丸かよ。狩るのは吸血鬼か?それとも狼男か?」 


 かなめが皮肉めいた言葉を吐く。だが、女性下士官は相手にしないでランにジャケットの下にもつけれるようなショルダーホルスターを渡す。


「じゃあ、次は嵯峨茜警視正」 


 事務的な言葉に反応して茜が踏み出す。その目の前に女性下士官は中型のリボルバーを差し出す。


「おい、リボルバーかよ。シャムじゃあるめえし。そんなにジャムが怖いのか?」 


 そう言うかなめを一瞥すると茜も箱に入った特性の弾を手にする。


「こけおどしのナンバルゲニア中尉のルガー・スーパーブラックホークとは違いますよ。M19の2.5インチ。スピードローダーは必要ですか?」


「お願いするわ」 


 茜にさらに丸い器具が渡される。茜はすぐに弾薬の蓋を開け、素早く357マグナム弾を手にした銃のシリンダーを開くと一発一発弾を込めていく。


「じゃあ、クラウゼ少佐」 


 待っていたかのようにアイシャが踏み出す。そしてごつい拳銃をカウンターの眼鏡の女性下士官から受け取る。


「H&K、USPの9ミリか。普通なんだな」 


「普通?そう言われるとしゃくに障るわね」 


 予備マガジンを見ると誠と同じ9mmパラベラム弾が装弾されている。


「ああ、神前曹長。この弾だともしかすると相性が悪いかもしれないですから、神前曹長のは別に用意しました」 


 まるで誠の心を読んでいたかのようにその下士官は言った。


「私はアイシャの弾と混ぜて使っても良いんだろ?」 


 カウラの言葉を聞きながら下士官は彼女の銃SIGザウエルP226と予備マガジンを取り出してカウンターに並べた。


「大丈夫だろ?どっちも作動には定評があるんだ。おう、アタシのは?」 


 せかすようなかなめの言葉にうんざりした顔のキムが手にいつものかなめの銃、XDM40を持って現れる。


「おい、どこが……ってスライドがステンレス?そんなのあったのか?」 


 そう言ってキムから銃を受け取るとかなめは何度か手に握って感触を確かめる。


「少し……いや、かなり感触が変わってるぞ」


「まあ法術対応のシステムを組み込んだんですよ。前から頼んでたじゃないですか!」 


「そうだった?」 


 かなめの回答にキムは呆れたように天を向いた。法術師としてすでに名が広まっている母の西園寺康子。そのことを考えればかなめに多少の法術師の素質があっても当然だと誠は思うが、一方でカウラは少しばかりさびしいような顔をしていた。部下の下士官がマガジンと弾を取り出したのを見ると言葉を吐こうとしたカウラの口が閉じる。


「40口径ね。いつも高いと思ってたけど、いくらぐらい9mmより高いわけ?」 


 自分の銃とホルスターがなじむのを狙って皮製のホルスターから銃を出したり入れたりしていたアイシャが先ほどの眼鏡の女性下士官に詰め寄る。


「このシルバーチップなら同じくらいだと思いますよ。ケースはどちらもリロード品ですし……プライマーの値段もたいしたこと無いですから。最近は遼州星系じゃあ銃関係の規制が緩くなっていますから。市場ではかなりだぶつき気味なんですよ。ああ……拳銃持ち込み禁止の東和には関係ないですけどね」 


 そう言う相手を疑うような目で見た後、アイシャは何度も手にした銃にマガジンをいれずに構えの型をとるかなめを見つめた。


「すると、コイツで撃てばそれなりの法術効果が得られると言うことなんだな」 


 かなめの言葉にキムはおっかなびっくりうなづく。それを見てかなめは手にした拳銃にマガジンを叩き込みスライドを引いて装弾する。


「じゃあ、島田」 


「なんで俺だけ呼び捨てなんだ?」 


 キムがにんまりと笑う。その顔を不審そうに島田が見つめる。キムは島田にランのマカロフより小さい銃が渡された。


「確かにコンパクトな奴を頼んだけどさあ」 


 そう言って島田はまじまじと自分に渡された銃を見つめた。それはラーナの使っているシグザウエルP230に似ていたがどこと無く古風な雰囲気の拳銃だった。


「ああ、それはモーゼルHScだ。一応弾は380ACPだから護身用としてはぎりぎりのスペックだからな。どうせお前は前線部隊じゃないんだから」 


 キムの言葉が終わると再び彼の部下が弾薬とマガジンを取り出す。


「なるほどねえ。確かにこれなら持ち運びは便利そうだわ。やっぱり隊長の私物か?」 


 そうたずねる島田を無視してキムはブリッジクルーが使っている銃であるベレッタM92FSを取り出してサラを呼んだ。


「弾だけの交換ね」 


 サラはそれを受け取るとジャケットを脱いでショルダーホルスターをつける。


「それでは神前」 


 そう言って神前の前に特徴的なフォルムのパラベラムピストルが置かれる。


「いつも思うんだけどこれってルガーじゃないのか?」 


 島田の言葉に呆れたように無視してキムは誠に予備マガジンと弾のケースを渡す。


「神前。これは専用だからなお前の。他の銃のと混ぜるなよ……まあお前の銃の弾は他の人のでも撃てるけどお前の銃に関しては俺は保障しないからな」


 キムはそう念を押して誠に銃を手渡した。誠はおっかなびっくりそれを手にと取ると不器用にマガジンに弾の装填を始めた。

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