第300話 甲一種出動

「甲一種か……燃える展開になりそうじゃねえか」 


 誠を振り返るかなめの視線に危なげな喜びのの色が混じる。誠は冷ややかに笑いながら周りを見渡した。


 そんな誠は明らかに動揺していた。


 司法局実働部隊のあらゆる武装と能力を制限無しに使用可能な甲一種出動。以前の胡州の軍部貴族主義者のクーデターである『近藤事件』ですら運用艦『高雄』の主砲の使用制限などがある甲二種出動であった。隊員達の視線は壇上のランに集まった。


「おー!今見て通りだ、やる気を見せろってこった」 


 そう言いながら隣に立つ吉田にランは目配せをする。再び画面に映像がでる。大型輸送機が映し出される。


「最新の輸送機、P23。東和軍北井基地の所属の機体だ。これに第二小隊……ベルガー!」 


「はっ!」 


 ランに呼ばれたカウラが一歩歩み出る。


「お前んとこの三人がこいつで敵陣に斬りこんでもらう。輸送機のパイロットは……菰田!」 


「はい!」 


 管理部の先頭に立っていた菰田が一歩進む。


「お前さんはこいつの飛行時間が一番長いんだ。パイロットをやれ」 


「了解しました」 


 そう言ってカウラに微笑みかける菰田をカウラは完全に無視した。そんな中、思わず笑いを漏らすアイシャをランの視線が捉えた。


「クラウゼ……。テメエが前線で仕切れ。そんぐらいの仕事はしろよ」 


「了解しました」 


 アイシャがすぐにまじめな顔で敬礼する。


「第一段階担当は以上!それでは各員、吉田から指示書のディスクを受け取って解散!」 


 そのままランは演台から下りる。カウラ、菰田、アイシャがそれぞれ吉田からディスクを受け取っている。


「おい、チビ。あれだけ広がった戦線に3機のアサルト・モジュールでどうしろって言うんだよ」 


 かなめのその言葉で誠は我に返った。広大な領域に戦線を拡大させたイスラム武装勢力をたった三機の戦力でどうこうできるものではないことは誰にでも分かることだった。だが、そんな作戦の立案を依頼されたランには奇妙なほどに余裕が感じられた。


「わからねー奴だな。第一小隊じゃなくてオメー等にお鉢が回ってきた理由。考えてみろよ」 


 そう言うランは勝利を確信しているように見えた。


「確かに戦線は急激に拡大しているな。でもよー配備されている治安維持部隊も激しく抵抗して戦線は入り乱れて大混乱状態なんだぜ。そこで核だの気化爆弾だの敵味方関係なく皆殺しにするような兵器を使ってみろや。同盟崩壊だけじゃすまねー話になるだろ?そこで先日の秘密兵器だ」 


 不適な笑いを浮かべる一見少女のようなランの言葉に誠もようやく事態を飲み込んだ。


「法術非破壊広域制圧兵器?」 


 なんとなく誠の口をついたのはその言葉だった。ランは笑いながらうなづいた。


「そういうわけだ。命は取らずに意識を奪う兵器。こんな場面にはうってつけだろ?吉田!冷蔵庫借りるぞ」 


 そう言うとランは誠達の返事も待たずに歩き出す。カウラはその後に続く。


「ですが、中佐。あの兵器の実用のめどは……」 


「あれで十分だ。アタシが保障するぜ。出力は上がることはあっても下がらねーはずだからな」 


 小さな上司ランが余裕たっぷりの表情で振り返る。


「あんな実験だけでそのままの実力が出せるかどうかなんて……」 


 そうこぼすかなめをランがいつもの睨んでいるとしか思えない視線で見つめる。かなめは気おされるようにそのまま黙り込んだ。ハンガーの階段を上り、誰もいない管理部と実働部隊の部屋を通り過ぎる。隊長室は留守だった。だが、先ほど見た嵯峨の映像が誠の脳裏に写り、いつもは感じない隊長である嵯峨への控えめな敬意が芽生えていることに気づいた。


「アイシャ。ついて来てるか?」 


 その声に誠が振り向くとそこにはアイシャとパーラがいた。


「当たり前じゃないの。それより今回の作戦の成功は……」 


 セキュリティーを解除して振り返るランの視線に迷いは無かった。


「失敗すると分かって動く馬鹿は珍しいんじゃねーの?アタシとしては任務成功の確立は八割は堅てーと思うがね」 


 そう言ってランはコンピュータルームの扉をくぐった。

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