第232話 歓迎の流儀

「それじゃあ……」 


 とんざしそうになる会議の雰囲気を変えようと茜が口を開いた。


「まだ終わんないの?」 


 扉が開き顔を出したのは嵯峨だった。


「お父様、今は会議中ですよ!」 


「そうカリカリしなさんな。それにこいつ等だって馬鹿じゃないんだ。俺達が『ギルド』についてはつかんでいる情報がほとんど無いことぐらい察しはついてるよ。そんなのに会議したって時間の無駄じゃん」


 実も蓋も無いことを言われて娘の茜は口ごもるしかなかった。


「まあ、会議なんて言うものは寝るものだからな。情報がわかり次第、それぞれに交換すれば事が足りるだろ?」 


「まあ、その通りなんですけど……」 


 それだけ言って茜は黙り込んだ。


「じゃあ解散か?」 


「そうは言っていません!」


 席を立とうとするかなめを茜がぴしゃりと制する。 


「でも、もうシン達はコンロがいい具合になってきたって言ってるぜ。まあ、堅苦しいことは後にしようや」 


「そう言う風に問題を先延ばしにするのはお父様の悪い癖ですよ」 


 刺すような視線を嵯峨に送った後、あきらめたように茜は端末を閉じた。解放されたというようにかなめは伸びをして、退屈な時間が終わったことを告げる。


「バーベキューっすか。いいっすよね」 


 ラーナはそう言うとそのまま会議室から出て行く。かなめ、アイシャ、カウラもまたその後に続く。


「神前!早く来いよ!」 


 かなめが廊下で叫ぶ。誠は座ったまま片付けをしている茜を見ていた。


「よろしくてよ、別に私を待たなくても」 


 不承不承言葉をひねり出した茜のやるせない表情を見ながら、誠はかなめ達を追った。


「良いんですか?こんなので」 


 誠はかなめに駆け寄ってみたものの、どうにも我慢しきれずにそう尋ねた。


「良いの良いの!叔父貴が責任取るって言うんだから」 


「俺のせいかよ」 


 そう言うと情けない顔をして嵯峨はタバコを口にくわえる。


「まあこれが我々の流儀だ。そのくらい慣れてもらわなくては困る」 


 いつものように表情も変えずにカウラはハンガーへ続く階段を降り始めた。ハンガーでは整備班員がバーベキューの下ごしらえに余念が無い。


「ちょっと!ちゃんと肉は平等に分けるのよ!そこ、もたもたしてないで野菜を運びなさい!」 


 明華は相変わらず整備員達を大声で叱り飛ばす。


「よう、歓迎される気分はどうだい」 


 嵯峨が走り回るブリッジクルーや整備員、そして警備部隊の面々をぼんやりと眺めているロナルドに声をかける。


「歓迎されるのが気分が悪いわけは無いでしょう」 


 口元は笑っているが目が呆れていた。隣に立つ岡部もただ何も出来ずに立ち尽くしている。調子の良いフェデロは整備員達を手伝っていた。


「遅くなりました」 


 そう言いながら茜は野菜を切り分けている管理部の面々に合流する。


「私、何か出来ませんか?」 


 ついさっきまで会議を遂行するように叫びかねない茜だったが手のひらを返したように歓迎会の準備に入ろうとしている。


「良いんだよ。茜。お前も歓迎される側なんだから黙って見てれば。さてと」 


 嵯峨はタバコに火をつけて座り込んだ。


「神前!手を貸せ」 


 いつの間にか復活していた島田が、クーラーボックスに入れる氷を砕いている。


「わかりました!」 


「アタシも行くぞ」 


「私も!」 


 かなめとアイシャが誠と一緒に駆け出す。遅れてカウラも後に続いた。


「いいねえ、若いってのは」 


 そう言いながら嵯峨はタバコの煙を吐いた。秋の風も吹き始めた八月の終わりの風は彼等をやさしく包んでいた。誠は空を見上げながらこれから始まる乱痴気騒ぎを想像して背筋に寒いものが走った。


 

                                                                 了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る