第230話 珍妙な喋り方の警官

 誠達は遅刻したのを察して恐る恐る実働部隊事務所のドアを開けた。


「少し遅いのでなくて?」 


 実働部隊控え室では、湯のみを手にしてくつろいでいる茜がいた。当然のように彼女は紺が基調の東都警察の制服を着ている。 


「さっさと着替えて来いってわけか?」 


「そうね。そしてそのまま第一会議室に集合していただければ助かりますわ」 


 そう言うと茜はぼんやりと立ち尽くしている誠達の横をすり抜け、ハンガーの方に向かって消えていった。


「私も?」 


 アイシャの言葉に誠達は頷く。そのまま四人は奥へと進んでいく。


「おはよう!神前曹長、すっかり人気者ね」 


 そう言ってロッカールームから歩いてきたのは技術部部長許明華大佐だった。島田達を監督する立場上今週は徹夜続きのはずだが疲れ一つ見せず鋭い視線を誠に投げてくる。


「急いで着替えた方が良いわよ。茜さんはああ見えては怒ると怖いらしいから」 


「まあな。表には出ないがかなり腹黒いしな」 


「ダーク茜」 


 かなめとアイシャが顔を見合わせて笑う。カウラは二人の肩を叩いた。その視線の先にはハンガーに向かったはずの茜が、眉を引きつらせながら誠達を見つめていた。


「じゃあ、第一会議室で!」 


 茜の一にらみに耐えかねて目を反らしたかなめはそう言うと奥の女子ロッカー室へ駆け込む。カウラとアイシャもその後を追う。


「神前曹長もも急いだ方がいいわよ」 


 そう言うと明華は微笑んで去っていく。


 誠は急いで男子ロッカー室に入る。冷房の効かないこの部屋の熱気と、汗がしみこんだすえた匂い。誠は自分のロッカーの前で東和陸軍と同形の司法局実働部隊夏季勤務服に着替える。かなり慣れた動作に勝手に手足が動く。忙しいのか暇なのか、それがよくわからないのがここ。誠もそれが理解できて来た。


 とりあえずネクタイは後で締めることにして手荷物とそのまま第一会議室に向かった。小柄な女性が会議室の扉の前を行ったり来たりしている。着ている制服は東都警察の紺色のブレザーなので誠にも彼女が茜の部下であることが推測できた。。


「こんにちわ」 


 声をかけた誠を見つめなおす女性警察官。丸く見える顔に乗った大きな眼が珍しそうに誠を見つめる。


「えーと。神前曹長っすね。僕はカルビナ・ラーナ巡査っす。一応、嵯峨主席捜査官の助手のようなことをしてます!」 


 元気に敬礼するラーナに、誠も敬礼で返す。


「すぐに名前がわかるなんて……警察組織でも僕ってそんなに有名人なんですか?」 


「そりゃあもう。近藤事件以来、遼南司法警察でも法術適正検査が大規模に行われましたから。軍や警察に奉職している人間なら知らない方が不思議っすよ!」 


 早口でまくし立てるラーナに呆れながら、誠はそのまま彼女と共に第一会議室に入った。


「ラーナさん、まだかなめさん達はお見えにならないの?」 


 上座に座っている茜が鋭い視線を投げるので、思わず誠は腰が引けた。


「ええ、呼んできたほうがいいっすか?」 


 ラーナはそう言いながらその場しのぎの苦笑いを浮かべた。


「結構よ。それより話し方、何とかならないの?」 


 茜は静かに目の前に携帯端末を広げている。


「へへへ、すいやせん……癖で」


 あっけらかんとラーナは笑っていた。


「すまねえ、コイツがぶつくさうるせえからな」 


「何よかなめちゃん。ここは職場よ。上官をコイツ呼ばわりはいただけないわね」 


 かなめ、アイシャ、そしてカウラが部屋に到着する。その反省の無いかなめの態度に茜は呆れ果てたと言う表情を浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る