第229話 歓迎パーティーの準備

 ハンガーの前ではどこに隠していたのか聞きたくなるほどのバーベキューコンロが並んでいた。それに木炭をくべ発火剤を撒いている整備員。そんなコンロをめぐって火をつけて回っているのは島田だった。


「おう、神前。着いたのか」 


 コンロに火をつけていた島田が振り返った。その目の下にクマができており、顔には血の気が無い。


「大丈夫なのか?そのまま放火とかしないでくれよ」 


 かなめは冗談のつもりなのだろうが誠にはそうなりかねないほどやつれた島田が心配だった。


「西園寺さん大丈夫ですよ。火をつけ終わったら仮眠を取らせてもらうつもりですから」 


 そんな島田の笑いも、どこか引きつって見える。カウラもアイシャも明らかにいつもはタフな島田のふらふらの様子が気になっているようでコンロの方に目が向いているのが誠にも見えた。


「じゃあがんばれや」 


 それだけ言って立ち去るかなめに誠達はついていく。その先のハンガーには新しいアサルト・モジュールM10が並んでいた。


 その肩の特徴的なムーバブルパルス放射型シールドから『源平絵巻物の武者姿』と評される05式に比べるとどこか角ばった昆虫のようにも見える灰色の三機の待機状態のアサルトモジュールが見える。


「へえ、結構良い感じの機体じゃねえか」 


 かなめはM10の足元まで行くと迫力のある胸部に張り出した反応パルス式ミサイル防御システムを見上げた。


「俺にとっても都合の良い機体だな。運用コストが安い上に故障が少なくてメンテ効率が高い。05式に比べればローコストでの運用には最適だ」 


 かなめは暗がりから響く男の声に驚いて飛びのく。そこでは管理部長、アブドゥール・シャー・シンが牛刀を研いでいた。


「やっぱり牛を潰すのはシンの旦那か」 


「まあな、俺はこの部隊では自分で潰した肉しか食えないからな」 


 敬虔なイスラム教徒である彼は、イスラムの法に則って処理した肉しか口にしない。彼がこう言うパーティーに参加するときは必ず彼がシャムの飼っているヤギや牛の処理を担当することになっていた。


「設計思想がよくわかる機体だ。総力戦が発生しても部品に必要とされる精度もかなり妥協が可能な機体だ。その部品にしても平均05式の三分の一の値段だ。予算の請求もこう言う機体ばかりだと楽なんだけどな」 


 シンはそれだけ言うと、また牛刀を研ぐ作業に戻った。


「バーベキューですか?」 


「見ればわかるでしょ?」 


 誠の問いにそう返すとアイシャはそのまま事務所につながる階段を上り始める。


「おう、おはよう」 


 大荷物を抱えたクバルカ・ラン中佐が立っている。いつものように小柄な体と比べて巨大に見えるトランクを引きずっている。


「その様子、出張ですね」 


「まあな。法術対策部隊の総会ってわけだ。西園寺、ジュネーブって行ったことあるか?」


 いきなり地球の話題をかなめに振るのは彼女なら何度か行ったことがあるだろうとランも思っているんだと誠は再確認した。 


「スイスは機会がねえけど、まあ会議を開くには向いてるところだって聞いてるぜ」 


「そうか。アタシは地球はこれで二回目だけどヨーロッパは初めてで……よく知らねえんだよなあ……」 


 ランはそう言うと髪を軽く撫で付けた。


「まあ、地球の連中に舐められないようにしてくれば良いんじゃねえの?そのなりじゃ難しいだろうがな」 


 それだけ言うと、ムッとした顔のランを置いてかなめが歩き出す。誠達も急いでそのあとに続いた。

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