第121話 初めての酒

「大丈夫か?ってカウラ!何してるんだ!」 


 コップを空にした誠が、かなめの声に気づいて、その視線の先を見た。


 カウラが一息でコップの中のビールを空けていた。誠、かなめ、アイシャはじっとその様子を観察している。


「大丈夫みたいだな」 


「舐めるな西園寺、別にどうと言う事はない。なるほど。これがビールか」 


 カウラには特に変化は見られなかった。ごく普通に立っている。


「肉、煮えたんじゃないの?」 


 アイシャはそう言うと土鍋の中を箸でかき回して肉を捜す。


「オマエは野菜を食え!」 


「かなめちゃんが食えば良いじゃない」 


「肉を入れたのはアタシだ」 


「獲ってきたのアタシだよ!」 


 シャムが手を上げるとその後頭部をかなめが小突く。


「テメエは隣の鍋で食ってたろ!」 


 三人はいろいろ言い合いながらも、土鍋をつつきまわしていた。


「じゃあ春菊入れますね」 


「神前、気が利くじゃないか?それと豆腐も入れろ!」 


「かなめちゃん、豆腐苦手じゃなかったの?」 


「馬鹿言うな!鍋の豆腐は絶品なんだ!っておい!」 


 かなめはカウラを指差して叫んだ。自分用に注いでいたラム酒カウラがを一息で空にした。エメラルドグリーンの髪の下。白い肌がみるみる赤くなっていく。そして彼女を中心としてしばらく奇妙な沈黙が流れる。 


「なるほろ。これがラム酒ろいうものなろか?」 


 ろれつが回っていないカウラが出来上がった。アルコール度数40度のラム酒をグラス一杯開けたカウラがふらふらし始める。


「神前!支えろ!」 


 かなめがふらふらとし始めたカウラを見てすぐに叫んだ。誠はカウラの背中に手を当て支える。カウラは緩んだ顔をとろんとした緑の瞳で誠を見つめる。


「誠君。気持ち良いのれ、ふらふらしちゃってますれす」 


 完全に出来上がっている。頬を赤く染めて、ぐるぐると頭を動かすカウラを見て誠は確信していた。


「大丈夫ですか、カウラさん」 


「大丈夫れすよ!大丈夫!おい!そこのおっぱい星人!これに何をれらのら!」 


「それはアタシのグラスだ!テメエが勝手に飲んだんだろうが!」 


「駄目よかなめちゃん。酔っ払いをいじめたら」 


 かなめは睨みつけ、アイシャはそれをなだめる。初めての状況だと言うのに二人は完全に立ち位置を決めていた。そして当然、誠は介抱役になった。 


「ベルガー大尉。しっかりしてくださいよ!」 


「誠君。ベルガー大尉ら無いのれすよ!カウラたんなのれす!」 


 そう言うと今度は急にしっかりとした足取りで立ち上がる。


「何!どうしたのって、まあ!カウラ。……西園寺!あんたでしょ!あの子に飲ませたの!」 


 騒ぎを聞きつけた明華、マリアがやってくる。


「姐御!アタシじゃねえよ!あの馬鹿が勝手に飲んだんです!」


 三人の目はまるでかなめを信じてないと言う色に染まっていた。 


「ベルガーの奴すっかり出来上がって。神前少尉、介抱お願い」


 明華はそう言うとそのままドム軍医を探しに行った 


「どんだけ飲んだんだ?ベルガーは」 


 きつい調子でマリアがかなめを問い詰める。


「ラム酒をコップ一杯」 


「まあ同じ量でアイシャが潰れたこともあったしな。それにしても情けないな」 


 マリアはそう言うと手にしていたウォッカの入ったグラスをあおいだ。こちらはまったく顔色が変わっていないのに誠は驚かされた。

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